第5章『狭間やすり』

第1話 他のクラスメイトが来る前に、偶然、二人っきりで話が盛り上がる……って設定……もう飽きた?

 ……人目を避けて着地し、ヘルメットを外すと、手からヘルメットが消え、ナメくんも元の大きさに戻っていた。


 僕が屈んでナメくんにお礼を言うと、ナメくんは照れたように帽子で顔を隠した。 ……そして、そのまま、繭のように、帽子にくるまれた。 


 乾燥とかお腹が空いたりとかしないように、冬眠状態になったのかも! ……僕は、ナメくんの繭?をポケットに入れ、余裕で校門に向かった。


 校門前で、白樺先輩に会った。


「あ、輪音りんね! おはよ!」


「おはようございます」


「あれ? 来る方向……ちがくない?」


 ドキッ!


「ま、まあ……ちょっと……」


 白樺先輩が笑顔で「あれぇ? 赤くなったぞ! ……わざわざコンタクトにかえてぇ~……まさか朝帰り〜!?」……と言って、横に来て僕の腕を肘で突っ付いた。


「そんな事、あるわけ無いじゃないですかぁ」


 白樺先輩は「へへへ〜っ」と言って僕の背中をバチンと叩いて……「冗談よ〜」と言いながら、背中に軽い痛みを残し、さっさと先に行ってしまった……。


 まるで旋風つむじかぜだ! ……ふふっ……良い先輩なんだよな。


 何か温かい気持ちが胸の中に拡がり、僕はほっこりしていた……。


 あっ! いけないいけない! 女の人にうつつを抜かしている時間があるなら、単語の1つでも覚えなくては! 僕は教室に急いだ。


 ……教室は、まだ誰も来ていない。


 ……? ……時計を見ると……


 ありゃ!いつもより、一時間も早い!


 そうか! 道理で白樺先輩と会う筈だ! 先輩は部活やってるからね。


 ……ん? 誰も居ないと思ったけど……隅に一人座っている。


「あ、おはよう……ございます」


 その子は小さな声で「……おはようございます」……と言って、また読んでいた本に目を落とした。


 この子は……『狭間はざまやすり』さん。 会話をするのは初めてだ。 


 ……僕も友達は多くは無いが、狭間さんは、僕に輪を掛けて友達が少なそうだ。


 ……? 狭間さんが、一度下げた視線をまた上げて、僕の顔を見ている。


 ……僕は『ん?』と、狭間さんの顔を見つめ直した。 すると、狭間さんは、サッと本で顔を隠し……「ごめん……なさい……。 ……メガネ……してないから……」 ……と、小さな声で言った。


 ……!


 僕が眼鏡を外したのに気付いたのにも驚いたが、狭間さんが読んでいる本を見て驚いた!


 マイケル・ジンジャー著『完璧な人生』!


 ぼ、僕が『完璧な人生』を望む起点となった『バイブル』だ!


 この女性ひとも『完璧な人生』を望んでるの!?

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