第17話 悪夢②

『今日お母さん仕事で買い物頼まれて、、帰ったら急に知らない車が、、二人がきて、、』


 あんなは、ショックのあまりしどろもどろで、何を言ってるのかわからなかった。僕も、平常心ではいられず、最初の言葉しか頭に入らなかった。

 本当にドラマであるようなあまりにもショックで、放心状態になり、あんなの声がドンドン小さくなって、聞こえなくなった。


 どこまで話をしたかわからないが、「行くわ」と言い、電話を切った。僕は電話を切った後、上司に理由を言わず『帰っていっすか?』と言うと、『落ち着いたら、連絡くれ』と言って帰してくれた。後から聞いたが、僕は電話中に無意識に壁を殴打していたらしく、上司もただ事じゃないと思い、帰してくれたという事だった。


 僕はタイヤをホイルスピンさせる程、全開でアクセルを踏み込み、あんなの家まで車をぶっ飛ばした。『何でだよ、、』怒りと悲しみ、後悔。全ての負の感情が僕を征服していた。涙を浮かべながら、身体の震えを止めるように、全力でハンドルを握りしめた。あんなの家の前まで着くと、あんなが外で腰かけていた。


 すぐに抱き締めようと車から降りるとフラフラと目眩がした。そこで気づいたが、僕は過呼吸になっていた。あんなの手前、そのような弱い自分を見せれないと思い、僕は自分の顔を2発殴り、気合いで直した。

 あんなの部屋に入り、少し落ち着かせる為にソファーに座らせ、僕は煙草を吸った。そして、あんながゆっくり話をし始めた。


 あんなが母親に夕飯の買い出しを頼まれ、買い物に向かった。あんなのお母さんは、正社員で働きに出ていて、あんなは夏休み中だったので、家に1人でいることが多かった。あんなが買い物から家路に着くと、すぐに家のチャイムがなった。『宅急便です』部屋のドアを開けると割り込むように一人の男が入ってきた。

『すいません、こちらに○○って方いらっしゃいますか?』あんなは少し戸惑いながら、いませんというと『そうですか。じゃあこちらの荷物、、』と出してきたものがナイフだった。あんなはビックリして下がると男が襲いかかってきた。気づくと、もう一人が入ってきていて、ビデオカメラをこちらに向けていた。力づくでやられた後に、一部始終をビデオカメラを回されていた。


 僕は怒りすぎて、頭が可笑しくなりそうだった。必死で奥歯を噛み締め、あんなを抱きしめることしかできなかった。その後、あんなを風呂屋に連れて行き、僕達の家に行った。二人とも全然食べれないんだけどご飯を食べて、エッチを連続で7回やった。

 最後のほうは、ほぼ感覚もないし、ヒリヒリしていたが、そんなものは関係なかった。あんなに入ってる汚ねえ物、記憶すべてを僕のものに変えたかった。その日、あんなは初めて僕の部屋に泊まった。あんなは、疲れて寝ていたが俺は眠れずに、ずっと怒りと戦っていた。


あんなの家の前で見た親父、

あんなが叫んだ親父、

今回の兄ちゃん。

全員、違う人間。


訳わかんねぇ。

本当に集団ストーカーなのか?


 どちらにせよ、あんなを守ることができるのは、僕しかいないと胸に刻み、悶々としていた。翌朝、目を覚ますと悪い夢でも見たのでは?と現実逃避した後に一瞬で笑えない現実に闇に足を引っ張られ、絶望に戻された。


『ちょっと落ち着くまで仕事休んでもいいですか?』『わかった。ゆっくりして大丈夫だから』

工場長は、多くを語らず、個人的な我が儘を当たり前のように受け入れてくれた。感謝しかなかった。


 翌日は、朝早く婆ちゃんの墓参りに行った。神頼みという訳ではないが、『どうかこの子を守ってください』と懇願した。その後、気晴らしに買い物をしたり、ご飯を食べにいったり、普段の休日のように過ごした。あんなも鬱ぎこんでいたが、いちお外には出れる。普通というのはわからないが、心の強い子だと思った。

 物凄く怖かったと思う。だけど、それ以上に悔しかったんだと思う。気づけば、辺りも暗くなり、今日も泊まろうとあんなの着替えを取りに、あんなの家に向かった。あんなが部屋に向かい、僕はボディーガードのように車を降り、周囲に目を配らせていた。


『ゆーちゃん・・・』


 暗闇の中、あんなのか細い声が聞こえ、僕は『ゾクッ』と体を強ばらせ、ゆっくり部屋の前まで向かった。部屋の前に着くと、玄関の前にはガラスの破片が飛び散っていた。無言で2人で部屋のドアを開けると、無惨に部屋が荒らされていた。よく見ると、タンスや押し入れか開けっぱなしで、下着や衣服も盗まれていた。ゴミ箱まで漁られた形跡があり、それを見ると、あんなはその場で泣き崩れた。


「上等」


 僕はあんなの小さな背中を見つめながら、覚悟を決めた。悶々とした気持ちが、一瞬で消え失せ、全身の血がたぎるのを感じた。追い詰められた時はいつもそうだった。いつ死んでも良かった幼少期にフラッシュバックするようにギラギラに目を見開き、『絶対に殺る』と思った。

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