その世界での当たり前

 その世界は創られた世界だ。

 遊ぶ為に、娯楽を提供し商売を行い利益を得る為に創られた世界だ。

 だが、此処は確かに世界であった。

 神と呼べる存在は元の世界では唯のゲームクリエイターで、全知全能には程遠く、零知零能よりも遙かに大きな存在である、唯の知的生命種だった。

 例えそれが発展した科学技術により、様々な強化を施されていようとも、世界を創造し創造神の如き結果を引き起こせたとしても、この世界を造り上げた存在は神と呼ぶには憚られる存在であった。


 世界は創られた。

 だが、その世界全ての要素に満遍に意識を通し作成された訳ではない。

 世界は遠大広大。

 唯のゲームクリエイターでは、どうしても限界があった。

 それ故に、この世界を創る際に偶発的に発生する事象が存在した。

 その最たる物、私達が最たる物と認識する物の一つと言って良いだろう事柄は何か?

 それは、生命の誕生であろう。

 この世界の神と呼んで良い存在が、世界の理…在り様を定めている間に、この世界で命は誕生していた。

 世界の理が完成し、宇宙という物が出来上がり、銀河が、恒星が、惑星が生まれたその結果、命は生まれた。

 命は偶発的に誕生したが、その偶然はこの世界を創りだした存在が、この世界に介入した結果を受けて発生した偶然だ。

 必然の過程から生まれた偶然により誕生した生命は、この世界をゲームとして彩る為に利用された。

 この世界の生命は、ゲームとして遊べるように拵えられた世界の理に組み込まれ、この世界を遊ぶ為に利用する為に、この世界へと赴いている者達の感情を揺さぶった。


 この世界には魔法があった。

 この世界にはゲームシステムがあった。

 この世界にはプレイヤーが居た。


 この世界にとってこれは当たり前の事。


 この世界で生命を営んでいる存在は確かに居たが、それと同時に利用される存在であった。


 この世界では当たり前の事。


 それでもプレイヤーは、この世界の命に心を動かされる。

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