廻間麗奈㉑


   ◼️



 〈放課後〉


「千尋ってさ……最近なんかエロくない?」


「え、エロい?」


「うん。エロいっていうか艶っぽくなった。幼馴染みの私が言うんだから間違いないよ」


 掃除の時間中、桜佐さんが唐突に変なことを言い出した。


「……セクハラだよ桜佐さん」


 桜佐さんは褒めているつもりっぽいが褒められている感じがしない。


「ごめんごめん。でも本当に変わったよね、何かあったの?」


「うーん……何も変わってないよ」


「いーや変わったね! 前はもっと子どもっぽさが残ってて可愛いかったけど、今は年相応に男子っぽさもあって加えてなんかアダルティな何かもある!」


「な、何その変な評価……」


 混ざりすぎてよくわからないことになっていると思う。


「うーん……美容関係に手を出したとか? エステとか?」


「行ってないよ。お金ないもん」


「だよねー。じゃあお姉さんに何か教えてもらったとか?」


「結衣姉さん? 何も教えてもらってないよ」


「これも違うかー。もしかして…………か、彼女ができたとか?」


「えっ」


「なんちゃってー。そんなわけないよねー」


「えっと……………………」


「えっ……待って待ってその反応はいるじゃん。確定じゃん。じょ、冗談のつもりだったのに……だ、誰なの?」


「い、いや……そ、掃除も終わったし、僕もう帰るね」


「か、帰る前に誰かだけ! だ、誰と付き合ってるの?」


 帰ろうとすると桜佐さんが慌てて止めてきた。


「い、いや」


「同じクラスの子? 先輩? 後輩? もしかして他校の子? 一文字だけでもいいからいいからヒントちょうだい!」


「……そ、それはーー」


「千尋くん」


 声の聞こえた方に顔を向けると教室の外から麗奈先輩が手を振っていた。


 麗奈先輩の家の前での待ち合わせのはずだったのに……。待ちきれなくて来てしまったのだろうか。


「ご、ごめんね桜佐さん。また明日ね」


「えっちょ、ちょっとまだ質問の答え聞いてない!」


 桜佐さんの声を無視して教室を後にした。




「もしかして千尋が付き合ってるのって…………」



 ◼️



 〈麗奈先輩の部屋〉


 麗奈先輩は受験勉強で忙しく、中々会うことができない。なので週に一度、時間を作って会う日を決めている。今日はその約束の日だ。


「はあ……一週間ぶりだね。本当はもっともっともっと千尋くんに甘えたいんだよ」


「知ってますよ」


「この日のために私は一週間頑張っているんだ」


 僕の太ももを枕代わりにしてゴロゴロと横になっている麗奈先輩。


「学校では千尋くんと付き合っているのを隠しているから、中々声もかけられないし」


「麗奈先輩と僕が付き合ってるってバレたら、学校中が大変なことになりますから」


「私は別に構わないのだが……。千尋くんに迷惑がかかるのなら我慢するよ」


 麗奈先輩がぷくっと頬を膨らませる。


「あっもうこんな時間だ。千尋くんといっぱい話したいことがあるのに……えっと何から話そうか……。そうだ、この前の模試で希望校がA判定だったんだよ!」


「す、すごい! おめでとうございます。さすが麗奈先輩」


「もっともっと褒めてくれ。えっとまだあるんだ、剣道の強豪校の大学から推薦も来ていてね。私の剣道は高校でナンバーワンだって言ってもらたんだ」


「そうですね。僕も麗奈先輩が一番だと思ってますよ」


「本当かい! ふふっ嬉しいなあ。あっ頭を撫でる手を止めては駄目だよ。褒めながら撫で続けてね」


「わかってますよ」


 嬉しそうに話してくれる麗奈先輩。小さな子どものようで微笑ましい気持ちになる。


 麗奈先輩の話を聞きながら頭を撫でて、褒めてあげる。


「あとはね……あっ…………」


 何か思い出したのか麗奈先輩の話が止まる。


「どうかされましたか?」


「その……今日教室に行ったときに話してた女の子、あれは誰だい?」


 先ほどまでの楽しそうな顔からガラッと寂しそうな顔に変わる麗奈先輩。


「えっ。同じクラスの女子ですよ」


「本当かい? 私が教室に行った時、すごく親しそうに見えたけど」


「えーと……すいません。幼馴染です」


「…………そうか。幼馴染みなんだね。……幼馴染み」


 幼馴染みという言葉を何度も呟く麗奈先輩。


「とても羨ましいよ。千尋くんと幼馴染なんて……」


 麗奈先輩はそのまま黙り込み、グッと唇を噛む。


「………………………………嫌だ」


「えっ──」


 麗奈先輩は起き上がると僕をベッドに押し倒し、そのまま馬乗りになる。手首も掴まれて身動きが取れない。


「れ、麗奈先輩?」


「………………千尋くんはやっぱり私みたいな情けなくて惨めで弱い人間より、昔から一緒の幼馴染の方が好きなのかい?」


「……そんなことないですよ。僕は麗奈先輩が好きです」


「ほ、本当かい?」


「はい」


「本当に本当? 嘘じゃない?」


「はい。嘘じゃありませんよ」


「……………………駄目なんだ。もし千尋くんが私から離れてしまったら私はもう生きていけない」


 下からみた麗奈先輩は今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。手首を掴んでいる力が一段と強くなる。


「千尋くん、私と一緒に暮らさないかい?」


「……えっ?」


「大学に進学すると同時に一人暮らしを始めようと思っているんだ。こんな家すぐに出ていきたいからね。


 住むところの目星はもう付けているんだ。千尋くんとそこで一緒に暮らそう? そうすれば君がいなくなってしまうという不安を抱えないで済むし、いつでも甘えることができる」


「ど、同棲するってことですか?」


「そうだよ。来年も……いやこれから先もずっと私と一緒にいてほしい」


「…………」


 とても魅力的な話だ。僕も麗奈先輩とできることならずっと一緒にいたい。


 でもお母さんが許してくれるだろうか……。高校生なのに同棲なんて駄目って一蹴されるかもしれないし、結依姉さんだって猛反対するだろう。


「………………」


「迷っているのかい?」


「じ、人生の大事なところなので……」


「…………そんな悪い千尋くんはお仕置きだよ」


「あっ……れ、麗奈先輩ず、ズルい」


 首に何度もキスをしてくる麗奈先輩。キスをされる度に背中がゾクゾクとしてしまう。


 その後も首や頬、唇とキスをされ続けた。


「…………れ、れいなせん……ぱい」


「ふふっ……気持ち良くて顔が蕩けてきたね」


「はあ……はあ……」


「じゃあもう一回聞くよ。……私と一緒に暮らしてくれるよね?」


「…………はい」


「やった……絶対だよ。もう取り消しは出来ないからね」


 どうやら僕も麗奈先輩から離れられなくなっているみたいだ……。




「さあ……今日もいっぱい甘えさせてくれ」


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