第7話 しょっぱい思い出

 僕はあえて高らかに言う。


「なんでも自分中心にことを進めるのでなく、ときには譲り合って乗り切る!」

 キュアとミアの2人は考え込む。

その動作はほとんど同じで、頭の上に添えるように手を乗せている。


 そんななか、2人の微妙な違いを発見する。

頭の上に添えているのは、キュアは左手、ミアは右手だ。

これって、2人を見分ける方法になるんじゃないのか!


 しばらく観察を続けながら、はなしを進める。


「譲り合ってこそ姉妹、譲り合ってこそメイドだと思うんだ!」

「譲り合ってこそ姉妹……」

 キュアの左手が頭の上から離れる。


「譲り合ってこそメイド……」

 今度はミアの右手。


 そして2人は顔を見合わせる。


「私たちなら、できるかも……ね、ミア!」

「うん。できるわ! 絶対!」

 静かに頷く2人。


「と、いうことで、2人はツインテールツインズ・キュアミアだね!」


 これではなしがまとまった。2人が声を揃えて言う。

「はいっ! ありがとうございます、ご主人様!」


 そして、2人して僕の懐に飛び込んできて、頬擦りをする。

右頬がキュア、左頬がミアだ。ふわっと甘い不思議な気持ちになる。


「はははっ。くすぐったいからやめなさい」

 素直にやめるキュアとミア。

もう少し堪能すればよかったと、ちょっと後悔。


 キュアとミア。それぞれに向き合いながら、その名を呼ぶ。


「キュア……ミア!」


 2人は顔を見合わせてから僕に向き合い、セリフを分け合う。


「ご主人様、私たちのこと……」

「……見分けることができるんですか?」

 たしかにできる。


「キュアは左利き、ミアは右利き、じゃないの、かなぁ……」

 あまり自信はない。ハズレだったときに備えて、苦笑いを作る。


「正解です!」

「ご主人様で私たちを見分けてくださったのは、はじめてです」

 それはそれは。2人はご主人様に恵まれていなかったんだろう。

正解と言われ、少し肩の荷がおりた。

これで、2人の主人として振る舞うことができる。


 ころころと笑うキュアとミア。僕もつられて笑顔になる。


「私は、それがとってもうれしいです」

「もう、一生、離れませんからね!」

 またしても、2人揃っての頬擦りだ。

今度は僕の心にも余裕があり、充分に堪能する。


 その感想は……うん、やわらかい!

館の主人となった初日に、とっても甘い思い出ができた。


 こうして僕は、どちらかに肩入れすることなく、

どっちが姉か問題と2人の戦隊名問題をまとめることができた。

おまけに2人を見分ける方法まで知ることができた。


 これで一件落着!

そう思った直後……2人の身体が僕から離れる。


「じゃあミアがこの匙を使ってちょうだい!」

「何を言ってるの。キュアが使うべきよ!」

 2人の譲り合いがはじまった。どちらが匙を持つか。

どちらが僕に味見をさせるかの譲り合い、だ。


 味見のこと、すっかり忘れていた。

やはり、食べなきゃダメなのか……。


 2人の言い争いはしばらく続くが、おさまる気配がない。


「ミアったら、いつまで経っても譲られないのね!」

「キュア、そっちこそ! いい加減に匙を使いなさいよ!」

 平行線に思えた口論は、意外なところで交わる。

2人の矛先が同時に僕に向かったのだ。


 迫り来るキュアとミア。腰に両手が当てられていて、若干前屈みの姿勢。

胸元に視線が行ってしまうのを避けるも、

今度はツインテールがゆらゆら。


「ご主人様、どうしてくれるんですか?」

「そうですよ。譲り合ってたらいつまで経っても味見してもらえない!」

「あ、いや、その、あの、えーっと……」

 僕は、苦し紛れに言い放つ。


「そういうときは、お互いに協力し合うといいんじゃないか、なぁ」

 味見させるのに、協力プレイなんて本当は必要ない。

1本の匙を2人で持つなんて至難の業だ。

さっきまではあんなにぶつかり合ってた2人なら尚更。


 そのうち2人とも諦めるだろう。そうすれば、僕は味見をしなくて済む。

そんな打算が僕にはあったが、直ぐに打ち砕かれることになる。


 2人は顔を見合わせたあと、妙に納得した表情を見せる。


「なるほど、いいじゃない。協力し合うなんて、素敵よ!」

 えっ? 今、何と?


「じゃあ決まりね。キュア、半分貸してちょうだい」

 はぁっ? キュアとミアの2人は息がぴったりだ。


 忘れていた! 2人は左利きと右利き。器用に両側から1本の匙を持つ。

そしてチキンライスをひと掬いして、僕の目の前に差し出す。


「ご主人様、よろしくお願いいたします!」

「味見をしてください!」

 世の中、そんなに甘くない。もう、逃れられない。

覚悟を決めて、パクリといく。


 その感想は……うん、塩っけが強い。

しょっぱい思い出になった。




 雷鳴に混ざって、馬のいななきが聞こえてくる。

そういえば、家財を運び込むよう、アイラに頼んであった。

いなないたのは僕の愛馬ペカリンだろうか。


 エミーが駆け込んでくる。

動作はきびきびとしているが、はなし方はおっとり。


「あー、そんなところで雨宿りしたらダメです」

 そんなところって、どこ? エミーには何が見えているんだ?

雨宿りといえば繁った木。だけどあそこは、避雷針代わり……。


 エミーの言う通り、これはおおごとだ。放っておけない。


「大変だ! 早く退かさないと」

 僕たちは、東の扉へと向かった。

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