エッチな悪戯

「行くぞ和希!」

「おうよ!」


 与人から蹴られたボールを胸でトラップし、俺はゴールへと蹴った。綺麗な放物線を描いでシュッとネットを揺らしてボールはゴールに吸い込まれた。


「ナイス~!」

「いいぞ~!」


 与人と、そしてもう一人の同じチームの友人とハイタッチを交わした。

 学校の放課後、いつも霞と過ごすわけだがこうして友人たちと遊ぶ時間もちゃんと確保している。俺は与人たちと、霞は朝比奈さんたちと時間を過ごしているというわけだ。


「汗掻いたなぁ」

「シャツびしょぬれなんだけど」

「ジュース買ってくるわ」


 もう暑い時期だから少し走っただけで汗を搔いてしまう。

 六人揃って何をするか、最初は与人の家に集まってみんなでゲームでもする流れだったが、ちょうど公園を通りがかった時にサッカーボールがポツンと一つ置かれていたのでこうなったのだ。


「それにしてもよく白鷺さんが許してくれたな?」

「霞はそこまで束縛する子じゃないぞ?」


 みんなの分のジュースを一緒に買いに来ていた与人に俺はそう返した。確かに与人たちに誘われた俺の返事をジッと見守っていたが、霞は別に自分との時間だけを大切にしろなんて言う子ではないのだ。


「まあ分かってるけどよ。いつものお前らを見てたら相当ベッタベタだし」

「……やっぱりそんな感じに見えるか?」


 恐る恐る聞くと何言ってんだって顔をされた。


「和希君。よく聞きたまえ」

「お、おう……」


 なんだよいきなり……まあでも取り合えず俺は素直に聞くことにした。


「気づけば白鷺さんがお前の傍に居るのはまあ置いておくとしよう。少ししたらお前の後頭部に胸を押し付けてるし、それをさも当たり前かのように過ごしているお前を見てどれだけの男子が嫉妬の炎を燃やしているか分かるか?」

「……………」

「内容もほぼ同じの弁当で、お前が食べているのを静かに見守り美味しいと言われれば女神のような微笑みをふと見せる。お前の前でしか見せない顔をあのクラス一の美少女はしてるわけだ」

「……もうわかった」

「しっかりと心に刻んでおけ。お前はもうリア充なのだと」


 だからお前は何者なんだよ。

 買ったジュースを友人たちに渡し、渇いた喉を潤す。久しぶりに運動したしサッカーはもういいかということで小腹を満たすためにファーストフード店へ向かった。


 俺としては霞が作ってくれる美味しいご飯の為に軽めに済ませるつもりだ。そうして雑談を交えて店を出た俺たちだったが、ちょうど向こう側に見覚えのある背中が見えた。


「あれって白鷺さんたちじゃね?」

「みたいだな」


 いつものメンバーで歩く四人を見つけた。

 結構離れてるはずなのに、ふと何かに気づいたように霞が背後を振り向いた。その先に居るのは当然俺たちで、それに気付いた霞は朝比奈さんの肩を叩いて俺たちに指を向けた。


「気づかれたぞ」

「近づいてくるじゃん」


 そのまま俺たちに霞たちは近づいてきた。

 相変わらずクラスで人気の四人が揃っている姿は目の保養であるのと同時に、俺たちだけでなく多くの視線を集めていた。


「やっほー和希」

「おう、楽しんでるか?」

「うん」


 相変わらずの無表情ありがとうございます。

 しかし、こうして会ったのはいいのだが霞がジッと見てくる。それこそ与人たちに誘われた時と同じ目をしていた。


「……ふむ」


 スマホを取り出して時計を確認するともうすぐ五時……うん、良い時間だ。

 与人たちに目を向けると頷いてくれたのでこれが解散の合図になった。どうやら霞たちの方もそろそろ解散しようと思っていたらしく丁度良かった。


「それじゃあ帰ろうか霞」

「うん」


 何だかんだ、汗で濡れたシャツが冷えて気持ち悪いしな。

 頷いた霞はごく自然な流れで俺の傍に近寄って手を握ってきた。朝比奈さんたちは苦笑し、与人たちはキッとハンカチを噛み締めるような仕草をして……何やってんだよ君たちは。


「それじゃあまた明日」

「バイバイ」

「お幸せにな!!」

「またね~♪」


 そうしてみんなと別れ、俺と霞は家に帰るのだった。

 俺の方は汗を掻いたということもあってすぐに風呂の準備をした。着ていたシャツを洗濯機に放り込み、早くシャワーを浴びたくて浴室に入った。


「……あ~♪」


 汗で汚れた体を流れるお湯が何とも心地良い。

 シャワーの音だけが耳に入る中、シャンプーで頭を洗っているそんな時だった。恐ろしく柔らかい何かが背中にピタッとくっ付き、同時にお腹に何かが回って来た。


「っ……霞?」


 シャワーの音で完全に気付かなかったが、こうして風呂に入っている俺に抱き着ける存在は現状この家には一人しかいない。問いかけても何も返ってこないので俺は大人しく頭を洗い終えた。


「……やっぱりか」


 目を開けて視線を下に向けるとやっぱり腕がお腹に回されていた。


「良く分かったね」

「そりゃ分かるよ」


 分からなかったらどんだけ鈍感なんだと苦笑する。

 結局、こうやって一緒に入ったのならまた同じように時間を過ごすだけだ。入れ替わるように霞がシャワーの前に立ち、俺は湯船に浸かることにした。


「いいよねこういうの」

「何が?」

「少し前までなら絶対に和希は照れてたし、私も同じだった。でも、もうこんなことで取り乱したりしないくらいにはお互いの裸に慣れた」

「……まあなぁ」


 確かにそれはあるな。

 外でいきなりキスをされたりすれば恥ずかしいしけど、家では……まあ恥ずかしいのは確かだが慣れたところはある。慣れたとはいっても、霞との触れ合いだからこそその一回一回がとても大切な瞬間だが。


「ふんふんふ~ん♪」


 鼻歌を口ずさんで大変機嫌の良さそうな霞を見つめていると俺にもさっきの仕返しをしたい気分になった。俺と同じようにシャワーを浴びている霞の視覚と聴覚はあまり働いていない。


「……いいよな彼氏だし、恋人だし、彼女だし、霞だし」


 うん、少しあれだが俺は行動に移した。

 慎重に湯船から出て霞の背後に回り、俺は霞がしたように腕を霞のお腹の方へと回した。ただし、俺の手はバッチリ霞の胸を掴んでいた。


「っ……」


 ピクッと震えた体にもっと悪戯をしろと悪い俺が囁いた。

 ……まあでも、恋人で一緒のお風呂に入るのならこれくらいは許されて然るべきとか思ってるんだけど。


「……………」

「……ぅん」


 大人しく頭を洗う霞の背後から胸をもにゅもにゅと揉む。本当に大きくて柔らかく少しでも力を入れれば指が沈んでいくし、かといって沈みきるわけでもなくしっかりとした弾力があった。

 人差し指でピンと弾くと、更に強く体が震えて……はい、申し訳ありませんもう止めます。


「……先に上がるぞ?」

「うん。私もすぐに上がる」


 ……おや? 特に普通か?

 偶にはエッチな悪戯を俺から仕掛けるのもそれはそれでありかもしれない、なんてことを考えながらリビングで霞を待っていた。


 しばらくして霞がリビングに現れ、ご飯の用意の為にエプロンを付ける。

 そして一言、霞はやっぱり無表情でこう言った。


「さっきのは寝る前にする合図と受け取った」

「……おう」


 霞の言葉に拒否権はないという圧を感じたのは気のせいじゃないかもしれない。

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