第6-2話 「胸とか揉まれたことあるしね」

 毎朝誰よりも早く学校に来るのは私の日課である。


 朝早く来たところで何をする訳でもなく別段意味はないのだけれど、何か理由をつけるのだとしたら母親が仕事で私よりも先に家を出ていくので、家に誰もいないから早く登校して来ているということになるのだろう。


 理由はないとはいえ、誰もいない教室で静かに本を読む時間は私に取って癒しの時間になっている。


「おはよ、麻薙さん」


 癒しの時間を邪魔するように声をかけてきたのは千国さんだ。

 普段はこんなに早い時間に登校してくることは絶対に無いのに何かあったのだろうか。


「あら、こんなに早く登校してくるなんて珍しいわね。どうかしたの?」

「麻薙さんに用があったから早く登校してきたの」


 私に用事?


 私が保健委員会に入ったことかしら。


 それとも健文くんの膝を弄ったことについて文句を言いにきたのかしら。


 まあなんにせよ、表情を見る限り穏やかな内容ではないことは確かね。


「千国さんが私に用があるなんて珍しいわね。なんの用?」

「私、ほしくんの家にいったの」


 ……。


 千国さんが健文くんの家に‼︎‼︎????


 なんで? どういう流れで千国さんが健文くんの家に行ったの⁉︎


 健文くんが私の家に来たことはあっても私が健文くんの家に行ったことはないって言うのに⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


 いや、そりゃまあ千国さんは私よりもずっと長い間健文くんと一緒にいるのだから、友達として家に遊びにいくことがあっても不思議ではないけれど……。


 とにかく私が動揺していることを千国さんには悟られないようにしなければ。


「……。それがどうしたの?」

「家に行っただけじゃないよ⁉︎ 私、ほしくんに下着見られたんだから‼︎」

「し、下着姿を見られたの⁉︎」

「ま、まあそんな感じ」


 下着姿を見られた⁉︎


 ということは健文くんと千国さんは一線を超えてしまったということ⁉︎


 い、いや、とはいえ健文くんと千国さんのこれまでの雰囲気を見ている限り付き合っているようには見えないし、一線を越えるどころかキスをしたり手を繋いだりすらしたことがないように見受けられるので流石にそれはないだろう。


 というか、健文くんに限ってそんなことあり得るはずがない


「へ、へぇ……。そ、それで? いくら下着姿を見られたからと言って健文くんのことだから手は出されていないのでしょう?」

「ほしくんだって男の子だもん。もちろん出されそうになったよ?」

「出されそうになったの⁉︎」


 出されそうになった⁉︎


 私なんかいつも私の方から健文くんにゴリ押ししてようやく健文くんが折れてくれるというのに、千国さんには健文くん自ら行ってるの‼︎‼︎??⁇


「そ、そりゃもちろん。押し倒されて私の上に乗りかかってきたけど、私の方からちゃんと拒否しておいたから。ほしくんは手を出したくてたまらなかったみたいだけど」

「そう。まあ健文くんも男の子だものね。よかったじゃない。ちゃんと女の子として見られてて」


 千国さんの話がテキトーな作り話の可能性もある。


 ここで私が動揺してしまえば付け入る隙を与えてしまうことになる。絶対に動揺するわけにはいかない。


「まあ私も健文くんに胸とか揉まれたことあるしね」

「胸⁉︎ へ、へぇそうなんだ」

「そうよ。家に押しかけてきたことだってあるんだから」

「それ本当なの⁉︎」


 胸を揉まれたというのも家に押しかけられたというのもどちらも正しくはないが、全てが嘘と言うわけでもないのでこれくらい言っても問題ないだろう。


 というか、これくらい牽制しておかないと気が済まない。


「本当よ。男の子って女の子なら誰でもいいのね」

「だ、誰でも……」

「もう用は終わったの? それならお手洗いに行かしてもらうことにするわ」

「誰でも……」


 千国さんが呆然として戦意喪失したところで、私はボロが出る前にトイレへと逃げ込むことにした。


 千国さんの発言が正しいかどうかは定かではないが、とりあえず後で健文くんを問い詰めることにしよう。

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