第21話:白雪姫の不安


 その後、夜霧よぎりの告白計画に抜本的な手直しを加えていく。


「男は度胸! 当たって砕けろです! とにかくいろいろなアプローチを仕掛けて、乙姫おとひめ先輩に認知してもらうことが――」


 桜が大味おおあじな提案、


「アプローチにもいろいろありますので、まずは日常の挨拶・連絡先の交換・学内での私的交流と段階を踏んで――」


 白雪がそれを現実的なものへ修正、


「――メッセージを送るときは、『返事のしやすさ』が大事だぞ」


 俺が要所でちょっとしたアドバイス。


 そんなこんなで、ようやくまともな行動方針プランが完成した。


「ラブ師匠、白雪さん、葛男くずお、ほんとありがとな! みんなのおかげで、なんかいけそうな気がしてきたわ!」


「何か進捗しんちょくがありましたら、いつでも相談してくださいね!」


「ご健闘、お祈りしています」


「まぁ、頑張れ」


「おぅ!」


 夜霧は会心の笑みを浮かべ、生徒会室を去るのだった。


「――さて、もういい時間ですし、私たちもそろそろ帰りましょうか」


「はい」


「だな」


 白凰はくおうからの帰り道。


「いやぁ、今日は本当に面白かったですねぇ……」


 ホクホク顔の桜は、しみじみとそう呟いた。


「お前、ほんと恋愛脳なのな」


「えぇ、もちろんですとも! 友達の恋バナで、ごはん三杯はいけます!」


 彼女はそう言って、自信満々に胸を張る。


「葛原くんも白雪さんも、好きな人ができたら、いつでも相談してくださいね?」


「いや、遠慮しとくわ」


「それについては、少し考えさせてください」


 そんな雑談を交わしていると、あっという間に駅へ到着。


「それでは、また明日ー!」


「はい、また明日」


「おぅ」


 桜と別れた後、俺と白雪は二人で帰路を歩く。


「――夜霧よぎりくん、上手くいくといいですね」


「まぁ、あいつは人格面に大きな問題を抱えているからな……。正直、けっこう厳しそうだ」


「そうですか? 今日見た限り、派手な容姿はともかくとして、まともな人のように思えたんですが……」


「長く付き合えば嫌でもわかる。あの馬鹿は何も考えず、その場のノリと勢いだけで生きているんだ。よく言えば刹那的せつなてき、悪く言えば破滅へ一直線。後、極度の目立ちたがり屋で……って、どうした?」


 白雪は不意に立ち止まり、目をしぱしぱとまばたかせた。


「いえ、ちょっと驚きました。葛原くずはらくんが、ゆいさん以外の人をこれほど饒舌じょうぜつに語るなんて……。夜霧よぎりくんとは、本当に仲がいいんですね」


「…………まぁ、悪い奴じゃねぇからな」


 あの馬鹿とは中学からの腐れ縁。

 俺の狭く浅い交友関係の中じゃ、かなり長い付き合いだ。


「驚いたと言えば、葛原くんがあんなにも恋愛に精通しているだなんて……正直、とても意外でした」


「そうか?」


 別にあれぐらい、普通のことだと思うけどな。


「ところで、その……葛原くんは……誰かとお付き合いされたことがあるんですか?」


「は? なんで?」


「いえ、特に深い意味はないのですが……。いろいろとよく知っていたので……そういう女性経験があるのかなぁと」


 白雪にしては珍しく、どこか歯切れの悪い口ぶりだ。


「ある」


「……そう、ですか……」


「――と、思うか? 残念ながら、この腐った眼で避けられっぱなしだ」


「……! そ、そうですよね……ふふっ」


 白雪はそう言って、何故かとても嬉しそうに微笑んだ。


 おいこら、『人の容姿を馬鹿にしてはいけません』って、道徳の授業で習わなかったか?

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