七、同志を頼れ
「第83回推し同好会会議を始める」
電気もつけず薄暗く粛々とした雰囲気の中、本日の会議が開かれた。
席に着く同胞たちの表情もなかなかに引き締まっていて、いい雰囲気を保っている。
そんな厳かな空気の中、部員たちが今週の推しに関する内容を語っていく。
それは今まで通りのものが多く、特に特筆するようなものはなかった。
「さて、では俺からだが……」
どこまで報告したものか。
今週は本当に激動の一週間だった。
屋上で彼女を見てからというもの、自分の運が急激に向上しているのを感じる。
場合によっては部員に糾弾されても何らおかしくないものばかりだ。
「推桐葵と連絡先を交換した。もちろんこれは彼女の了承を得てだ」
「おお!」
「ついに部長が……!」
「逆に今まで知らなかったんですね!」
まあ正しくは向こうから提案してきたというのが正しいのだろうが、そこまで詳細に話す必要は特にないだろう。
「まあ交換した主な理由なんだが、彼女と連絡を取り合う必要性が出た」
「それはいったい……」
「もったいぶらずに話してください」
連絡先を交換したという事実だけでテンションが上がっている同胞たち。
この先を言ったらいったいどんなことになってしまうのか。
俺ですら二日はろくに眠れなくなってしまったのだ。
身体的侵害が心配だが……まあ今更躊躇しても仕方ないか。
「推桐葵と今週末デートの予習を行うこととなった」
「デート!?」
「……の予習?」
「そうだ。ここは断じて勘違いしてはいけない部分だが、デートではなく本番を迎えるための予習だ。だから俺はこの事実に浮かれている場合ではなく、彼女をしっかりとサポートする必要がある」
「でも彼女と実際にどこかに出かけるってことですよね?」
「そうだ。向こうから予習を行いたいと提案されたのでな。しかし向こうから言われたのはあくまでも予習だ」
「でもそれって実質……」
「まあ部長があくまでもそういうのであれば……」
部員たちは何か腑に落ちない部分でもあるのかこそこそと何かを話している。
「もちろん俺は彼女の意に添えるよう迷惑はかけないつもりだ。そして迷惑をかけないためにも、君たち同胞に聞きたいことがある」
ざわざわとしていた空気管が俺の発言により再び引き締まる。
「俺は彼女を推し続けてきた。だから推すとは何たるかは把握しているつもりだ。だがしかし生まれてこの方、デートをしたことがない。そんな俺に果たしてサポート役が務まるだろうか」
そう、俺がずっと危惧している点はこのことだ。
推桐葵のためにできることはしたいのだが、そもそも何をすればいいのか。
何か準備するべきなのか。それすらもわかっていない。
「だからこそ、今日はわが同胞たちに聞きたい。……デートとは何か」
「デート……」
「それは……」
そう俺一人で解決しないのであれば、仲間に、同法に助けを求めればいい。
そして彼女にとってより良い結論を導き出していけばいいのだ。
「部長、私たちを頼ってくれるのは非常にありがたいです。ですが一つ肝心な部分が抜けてしまっています」
眼鏡をかけた頭がよさそうな同胞が眼鏡を挙げながらこちらに提案してくる。
何か懸念点でもあるのだろうか。
「部長と同様、私たちもそ、その……デートをしたことがありません」
「ええ、一人違わず彼女なしの童貞なんです!」
「……そうか」
そういった可能性は確かに考えていなかった。
一人くらいはデートに詳しい奴が一人はいるだろうと思っていたが、どうやらその見通しですら甘かったらしい。
「だがしかしこの貴重な機会を逃すのも確かにもったいないといえるでしょう」
「私から一つ提案があります」
「おお、ぜひとも教えてくれ」
明るい茶髪をした部員が手を挙げてその場に立ち上がる。
その手にはスマホが握られていて、何やら画面を表示しているようだった。
「ここは先人たちの知識、つまりネットの力を借りるというのはいかがでしょうか」
「……なるほど」
「確かにネットの力を借りるにしても一人ではなく、この人数で調べれば必要な情報の取捨選択、多くの知識が手に入るかもしれない」
「よし、その案でいこう。すまないがみんな協力してくれるだろうか」
「もちろん」
そこからは各々がスマホを取り出し、しばらくは無言でネットの知恵を集める時間となった。
そして集まった情報をもとにああでもこうでもないと意見を出し合うのだった。
結局机上の空論でしかないのだが、俺にとってはいい時間を過ごせた。
これで少しでも彼女とのデートの予習に生かせる部分があればいいのだが。
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