メリークリスマス(戦車~死神の正逆位置)

 その後も私は順調にプレゼントを置いて回った。


 お兄さんには方位磁針、車戦さんにはお手玉を用意した。常に前を向き多くのものを導くお兄さんが、不安になったとき役立つように。時々風に飛ばされて、居場所がわからなくなる車戦さんには、お手玉を重りにして、ここに滞在していられるように。


 力さんにはブレスレットとイヤリングのセット、逆位置さんには催眠音声CDを用意した。我慢強い正位置さんには、たまには自分を解放してかわいいものを身に着けられるように。昔我慢をしすぎて歯止めが利かなくなった逆位置さんには、自分の欲がうまくコントロール出来るように。きっと後日逆位置さんからは文句を言われるだろうなと思いつつ、部屋の前に置いたのだった。


 おじいちゃんには新しい急須、逆じいちゃんには囲碁道具一式を用意した。何時も行くとお茶を淹れてくれるおじいちゃんは、お気に入りの急須にヒビが入ったと言って嘆いていたから、また二人でおいしいお茶を飲めるように。落とし穴作りに勤しむ悪趣味を持つ逆じいちゃんには、たまには普通のおじいちゃんになれるように。


 運命の輪さんたちには、ジグソーパズルを用意した。通常のものと比べてピースが多く、完成すると大きな一枚の絵になる仕様になっている。言葉を発することが出来ない彼女たちに、目から入る感動を知ってもらえるように。


 正義さんには花柄のコーヒーカップを、逆位置さんには鏡を持たせた双子のテディベアを用意した。実はコーヒーが苦手だという正義さんが、苦手を克服できるように。本来の自分を出せず、敢えて中二病を振舞っている逆位置さんには、鏡を通して本来の自分を出せるように。


 吊るされた男の正位置さんにはニット帽を、逆位置さんには手作りのお守りを用意した。自ら吊るされることを受け入れる彼に、ほんの少しの慈悲の心が伝わるように。受け入れようと努力をしている彼には、一人ではないという安心感を感じられるように。


「さて……いよいよ彼らの所にきたわね」


 次はしー君と死神くんの所。彼等は仕事上ちょうどこの時間に帰ってくるのだが、遭遇する可能性が大いにある。恋人さんにも遭遇しているし、今更もういいかなとは思うのだが、やはりびっくりさせたい。


「あれ……しー君は寝てるんだ」


 恐る恐る部屋を覗くと、前回私が渡したビー玉に囲まれながら、すやすやと寝息を立てるしー君が目に入った。安堵しつつ、用意していた抱き枕を忍ばせた。仕事熱心すぎて中々眠れないという彼が、安眠出来るように。

 次に死神くんの部屋へ向かう。電機は消えており、中にそっと入ったのだが誰もいない。


「なーにしてるの主……おじいさんみたいな格好して」


 いないのかと思い後ろを振り返ると、死神くんが不思議そうな顔をして立っていた。恋人さんの時と同様に口をパクパクさせ、一度深呼吸をしてから事の経緯を話すと、彼からも怒られてしまった。


「気持ちは嬉しいけど、危ないからもうしないでよね!」

「ごめんね心配かけて……でもありがとう」

「もう……ところで僕には何を用意してくれたのー?」

「いろいろ悩んだんだけど、寒がりさんだからマフラーを編んだんだ。サイズはどうかな?」


 死神くんには手作りのマフラーを、寒がりな彼が暖かくなるように。嬉しそうに巻いて見せる彼は、冬は毎日巻くと言って喜んでくれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る