私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(クリスマス特別編)

死神の嫁

メリークリスマス(愚者~法王の正逆位置)

 日付が変わる深夜一時頃、この日の為にと用意していた衣装に着換え、付属の帽子を被った私は最後の確認をしていた。かなり本格的なこの衣装には、専用の大きな白い袋と髭まで付いている。流石に髭はいらないかなと苦笑しながらも、事前に用意したプレゼントを順番になるように袋に詰めていく。


「よし、いこう」


 同じくセットの赤いブーツを履き、袋を担いだ私は部屋を出て、彼等の世界へと足を踏み入れた。


「最初は愚者さんだね、二人共部屋の前に置いておけばいいか」


 正位置には運動靴、逆位置には博物館のチケットを用意し、部屋の前に置いた。正位置はよくいろんな所に出かけるから、疲れにくいように。逆位置は引きこもりがちだから、彼の好きな鉱石が見られるように。


「次はマジシャン達、あの子たち警戒心が強いし部屋の前でいいよね」


 正位置には知恵の輪、逆位置には手袋が入ったプレゼント箱を置いた。正位置は作ることは得意なのだが、解くことが苦手なのでその訓練ができるように。逆位置は破壊するとき武器を素手で持っているから、傷つかないように。


「こんばんは、深夜遅くにすみません……」

「いえいえ、お話は事前に伺っておりましたから」


 女教皇さんから法王さんまでの人たちには、それぞれ護衛の人がいる。基本的に顔パスなのだが、流石にこの格好では警戒されると思い、護衛の人には事前に打ち明けていた。その上で、代わりに部屋の前においてもらうように頼んでおいたのである。


「これが女教皇さんたちの分、これが女帝さんたち、皇帝さんたち、最後が法王さんたちになります」


 姉さんには、足湯のセット。妹さんには天然石で出来たダウジングを用意した。お姉さんである正位置は、いつも仕事ばかりでリラックスできていないから、せめて仕事中でも癒されるように。妹さんは優柔不断だから、困った時はダウジングで、はい・いいえを決められるように。


 女帝さんには、ドライフラワー。女王様にはドリームキャッチャーを用意した。女帝さんはお花が好きなのだが、枯れていく花を見ていつも悲しそうにしているので、枯れることのない花を。女王様は時々悪夢にうなされてしまうので、悪い夢を見ないように。


 父にはカラーボックス。王様にはレターセットを用意した。父は書類整理が苦手なので、少しでも整理がしやすいように。王様は女王様への想いがもっと伝わるように。

 

 最後に法王さんには、カメラ。逆位置さんには小説を用意した。目で語る法王さんに、カメラの目を通して美しい世界を見られるように。噓話をする彼に、噓で書かれた面白い話を読んでもらい、彼自身も楽しんでくれるように。


「確かに受け取りました、責任を持ってお渡しいたします」

「それと、これは皆さんに。何時も彼等のそばにいてくれて、本当にありがとうございます。疲れがよく取れる入浴剤です」

「我々にまで……何とお礼をしてよいやら」


 彼らの世界の中とはいえ、彼らを支えてくれている護衛の人がいるから、私も安心できる部分がある。そう言うと護衛の人達は各々静かに泣きながら何度もお礼の言葉を口にしたのだった。

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