第41話 犬の骸骨

『名郷は、もう終わってるわね……?』


 塩浦が魔物のスケルトンを二体倒し、真澄の前方に散らばる砕けた骨を見て首を傾げる。


『これは……』


『ソゾロシリーズってすごい威力だな』


『わたしの時はここまでなってなかったでしょ……』


『結果に違いがあるのは魔力の差ですね。マスミさんはスケルトンの状態で自然と武器に魔力をまとわせていますので』


『……ずるいわね』


――そう言われてもな。


『わたしも同じことができるようになるのかしら』


『おそらくとしか言えません。シオウラさんよりも多いキクヒメさんの保有魔力量を考えると、単純な戦闘行為は影響しにくいのでしょう』


『師匠って呼んでいいよ』


『もー、名郷! もっと早くダンジョンのこと教えてくれたらよかったのに!』


『カスミンの存在を知ってれば声をかけられたんだが』


 三階層も魔物の相手を塩浦がメインに担当し、複数現れたときには真澄がフォローを入れて順調に先を進んだ。


「カタカタカタカタカタ!」


「お、階段だな」


 時間の経過で三人は人間の姿に戻り、初めての四階層へ挑む。


「ここに出るのは剣と盾を持つスケルトンとスカルドッグだったか」


 階段を下りて事前に聞いた情報を再確認する。洞窟の風景は同じだが湿気は違いがわかるほどに高かった。


 四階層はファイネ自身も行き止まりをしらみつぶしに探索して、ようやく進める先に見当をつけたところだった。


「スカルドッグもダンジョンズエクエスではよく見かけたけどなぁ……」


「召喚酔いを無視する急襲持ちよね」


「俊敏な魔物なのは想像がつく」


「Cランクの魔物だし名郷なら十分相手をできるわよ」


「まったくピンとこないんだが」


「自分の実力を測れないのもちょっとした嫌味なのかしら」


――わかりやすい基準を作ってくれとしか……。


 先頭は地図すら見ずにファイネが務める。魔物はスケルトンが現れてばかりだったが、川が流れる場所に差し掛かって急に足が止まった。


「何かいるみたいだ」


 ファイネは骨を震わすと邪魔になるため静かにしていた。それを汲み取って真澄が判断する。


「たぶんスカルドッグだろうな」


「ここも一番弟子のわたしが相手をするわね」


「二番弟子は菊姫さんになったから、塩浦は三番弟子だ」


 塩浦が前に出て立ち止まるも骨の音は中々聞こえてこない。洞窟の右側に川が流れ、狭くなった足場は二人が並んで歩ける程度の幅。一本道で限られた先を照明具が照らし、ゆっくりと迫り来る犬の骸骨を捕捉した。


「カードまんまの見た目か」


「大丈夫、師匠の攻撃より飛びかかってくる速度は遅いんだから。こういう相手は射出機構の使いどころよ」


 体勢を低くした塩浦はジッとタイミングを窺う。スカルドッグはなおも静かに右へ左へ揺れながら、徐々に距離を詰めてきた。


「カタカタ!」


「ここ!」


 急な飛びかかりの攻撃は不意を突かれると脅威だが、対応できれば隙になる。高速の攻撃は動きを捉えて見事なカウンターになった。


 スカルドッグは吹き飛んで骨を散らす。人型のスケルトン同様、一撃で倒し切った。


「耐久力はそこまでって感じだな」


「ソゾロシリーズがすごいのよ!」


 地形が複雑になった四階層も、魔物自体は人間姿の真澄に対応できるレベル。ファイネのおかげで道は示されているので安心安全に先を進んでいく。


 そして、大部屋の一歩手前で再び立ち止まった。


「カタカタカタカタカタ!」


 ファイネは指を三本立てた後に五本立て、意志を伝える。


「魔物が三十五体現れるのは多すぎるし、三から五体が妥当か? いや、スケルトンが三体でスカルドッグが五体もありえるな」


 さすがに細かな情報は読み取れず可能性を考えて行動するしかなかった。


「入口に立って対処しましょう。三方向に分けてわたしは正面と右、名郷は左を担当ね」


「了解」


 ファイネが自ら行かない限りは任されていると思い、二人は大部屋に入って気配を探る。


「……」


 灯りで照らされた範囲には魔物の姿がなく、待っていても襲い掛かってこなかった。


「試しに石ころを投げるのはどうだ?」


「そうしましょうか」


「これ使ったら?」


 そこで、菊姫が背負う鞄から小さな照明具を取り出す。三百六十度をカバーできるタイプで広く照らすことが可能な、塩浦が用意した道具だった。


「なるほど、確かに使いどころでしたね」


 真澄が受け取ると菊姫は自らの左手を見てなぜか首を傾げる。


「どうかしました?」


「ちょっとね」


 気になるが今は魔物を優先させ、真澄は照明具の明るさを最大にして前方に放り投げた。すると、大部屋の詳細が照らし出されて正面奥に何かが見えた。


「あれは……」


 座ったスケルトンの背中が目に入り、その両隣にはスカルドッグが一体ずつ伏せていた。


「魔物は三体で合ってるよな?」


「他には見当たらないわね」


 互いに確認を取り合ったところで音に気付いた魔物が動き出す。


「カタカタカタカタカタ!」


 さらに灯りへ反応し、骨の震える音が大部屋に響き渡った。


――人型と犬の組み合わせはちょっと厄介だな。


「こっちから近づくか?」


「向こうの足並みが揃っていたら考えましょう」


 様子を見るため待機を続けていたその時、すぐ横を何かが勢いよく通り過ぎて前方に飛んでいった。


「え?」


 その何かは人型スケルトンの頭部を吹き飛ばし、骨を周囲に散らばらせる。真澄が後ろを向くと菊姫が左手を前に構えた体勢で、驚いた表情を見せていた。


「名郷!」


 真澄は塩浦に呼ばれ慌てて前に向き直す。残った二体のスカルドッグは構わず走って距離を詰めてくる。


「前後にずれてる。一体目をわたしが仕留めるから二体目をお願い」


「任せろ」


 二人は同じように体勢を低くして射出機構の体勢に入った。


「ふぅ……」


「はい!」


 真澄が息を吐いたと同時に塩浦が剣を抜いて声を出し、攻撃後に横へ飛んで邪魔にならない位置へ離れる。


「んぐっ!」


 続けて腕を振られながら、真澄の居合いがスカルドッグに命中した。

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