第20話 新人フォトグラファー【Okiku】

『今日の訓練はお休みにしましょう』


 学校から帰ってダンジョンでいつものように充電池の交換をしているとき、ふとファイネが提案する。真澄の頭にはきびしい人達がふいに見せたやさしさ、という再放送で見た古いアニメ主題歌の一節が流れた。


『もしかして、スケルトンの状態でも何か悪影響が?』


『そこはマスミさんに異常がないので大丈夫なはずです』


『なるほど……』


――まさか人体実験の最中だったとは。


『理由は人の姿で戦った経験をスケルトンで上書きされるのを避けたいからです。休むのと同時に身体に馴染ませる時間が必要な気がしました』


『……』


――気がしたのなら仕方ないか。


 普段のスパルタ気味な訓練を振り返り、実は教えるのが下手なだけ疑惑が浮かび上がった。


『今日は休むとして、こういう木って他にも取ってこれる?』


 真澄は床に敷かれた木を叩いて、聞くべきことを聞いておく。


『はい、取ってこれると思います』


『じゃあ、お願いしよう』


『わかりました!』


 目的を言うと余計な気をつかわせるので軽く流し、もう一つ気をつかわせる話題に移る。


『それとファイネが使い慣れた武器ってどんな物なんだ?』


『片手剣ですね。特定の武器は持っていましたが、あまりこだわりなく調達して使うことが多かったです』


『まさにプロって感じだな』


――オーソドックスな片手剣で調べてみるか。


 ファイネはそこで自分の武器を購入するための質問だったと気づき、言葉を返せず頭を左右に揺らした。






「さてと」


 真澄はダンジョンから家に戻って、早速ダンジョン用の武器を売る店をチェックする。


「片手剣……ブロードソードかロングソードのカテゴリーかな?」


 調てみるとブロードソードのほうが短く軽いが、ロングソードと長さが同等の武器もあった。


――長さが同じだとロングソードのほうが重みでは勝つのか。


 ファイネが重さを基準に考えていたのを思い出す。値段の違いは一万程度。


「元が十二万だと追加の額が安く感じるから不思議だ」


 ただし先行投資には大きい額で、菊姫にお願いするにはまだまだ撮影への協力が必要だった。


――とりあえずメッセージで送るだけは送っておこう。


 そのほうが無茶な頼みも遠慮なくしてくれるだろうと考えることにした。


「ついでにカードゲームも調べるか」


 ダンジョンズエクエスはスマホでもアプリで配信が行われている。真澄はインストールを済ませ、SNSとの連携でアカウントを作成した。


「オープニングだ」


 まずは手の込んだムービーが流れて世界観の説明へ移る。


「未来の話で……ダンジョンにいる魔物が地上に溢れ出てきた?」


 ダンジョンズエクエスでは魔物が地上を荒らし、荒廃的な世界が表現されていた。その後は魔物の使役方法が見つかって探索者を中心に六つの勢力が覇権を争うのだ、と仰々しく煽りが入りゲームが始まった。


「お、菊姫さんだ」


 先ほど送ったメッセージに返事が来たのでゲームを切り上げる。



菊姫【一本でいいの?】


真澄【もちろんです。実物を確かめてみたいので】


菊姫【もうダンジョンズエクエスの運営からイラストになったスケルトンがサンプルで送られて来たよ】



「早すぎでは……?」



真澄【すごいスピード感ですね】


菊姫【既存のカードにイラストのバリエーション違いで、明日には実装するんだって】



「いや、早すぎってレベルじゃ……」



真澄【もしかして騙されてません?】


菊姫【公式サイトにOkikuのペンネームが載ってた】



 真澄が半信半疑にダンジョンズエクエスの公式サイトを開くと、アップデートの欄に新人フォトグラファーOkikuと書かれた文言を見つけた。


「本当だった……」


 リンクをたどるとイラスト部分が黒塗りになった“古のスケルトン”というCランクレアのカードが表示される。


――驚いたけど更新間隔が一日空いてないときもあるな。



真澄【お祝いしましょうか】


菊姫【プレゼントは木刀でいいよ】


真澄【わかりました】


菊姫【冗談だから】



 真澄にとってはナイスな提案だと思ったが、本気さが伝わったのかノータイムで断られる。



菊姫【代わりに木刀の写真を撮らせて】


真澄【いつでも何枚でも撮ってください。そんな写真もカードになるんですか?】


菊姫【だってさ。いくつかアドバイスをもらえてね。ダンジョンに関連した小道具とか背景に使えるダンジョンの風景写真とか。魔物にこだわらなくても手はあるみたい】



――なるほど、カードゲームだし種類は魔物に限らないのか。



真澄【色々考えるのに幅ができましたね】


菊姫【しばらくはダンジョンズエクエスでの採用を目指してみるよ】


真澄【協力するんでなんでも言ってください】


菊姫【なんでもとは大きく出たね】


真澄【菊姫さんへ全ベットすることに決めました】


菊姫【きっかけはきみなんだけどね】


真澄【それじゃあ、感謝ついでにファイネがいる小部屋に家具を作ってくれませんか?】



 真澄は菊姫が忙しくなる前にと思い、お願いする。



菊姫【いいよ。何を作るかは?】


真澄【日にちを確認できれば人間らしい生活につながりませんかね】


菊姫【いいかもね。考えとくよ】

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