第17話 三階層の行き止まりにて

『見てくださいよ。ファイネの戦いっぷりを』


 道中で出会う魔物をファイネが一撃で倒していき、その後ろを真澄と菊姫が安全についていく。


『もしこっちに襲い掛かってきたら瞬きする暇なくやられるね』


『そんなもしは起こらないんで安心してください』


『それよりさ、あの子がモデルをやるならきみが武器を奪ったスケルトンの相手をするんだよ?』


『正直、そこが最大の懸念点ですよね』


 ファイネがモデルになり菊姫が撮影をする。当然、その間は残った真澄が素手になった魔物の引きつけ役を担う。


 スケルトンの状態で戦える自信はあっても、今回は人間の姿で対応する必要がある。普段の自分そのままではいささか不安があった。


『マスミさんなら大丈夫です!』


 魔物を撃退したファイネが戻るなり力強く骨を震わす。


『もし手間取ったときは助けてくれると……』


『そんなもしは訪れません!』


『あ、うん……』


――ファイネって根拠の薄い押しの強さがあるよな。


 結局は気の持ちようかと、言葉に押されて頷く真澄の肩を菊姫が叩いた。


『骨は拾ってあげる』


『……ぜひとも冗談で済んでほしいですね』


 そして、ファイネに隙はなく順調にダンジョンを先へ進む。三方向の分かれ道も、地図用にメモを取りながら迷う様子はなかった。


『ファイネはこのダンジョンをどこまで潜ってるんだ?』


『四階層ですね』


――てっきり、もっと先を行ってるのかと思ってた。


『崖があったり川が流れる場所があるんですよ。魔物は平気なのですが地形に苦労している状況です』


『ダンジョンにはそういう怖さもあるんだな……』


『焦らず注意を払っての探索になります。あ、三階層に続く階段が見えましたよ』


 三人は目的の階層へ下りていく。まだ洞窟の風景に変化はなかった。


『武器を持ったスケルトンはすぐに出てくるのか?』


『剣を持つスケルトンは階段の近くに現れますが、盾を一緒に持つスケルトンは少し奥になりますね』


――ファイネに任せられるかもと思ったけど、やっぱり時間はぎりぎりか。






「カタカタカタカタカタ!」


「菊姫さん、そろそろみたいですよ」


「骨語がわかるなんて、そっちでお金を稼げそうだね」


 分かれ道が交差する場所は魔物が集まりやすい。ファイネに導かれて行き止まりにやってきた頃には、真澄と菊姫は共に人間の姿へ戻っていた。


「セッティングは任せていいですか?」


「それぐらいはするよ」


 真澄は背負っていたリュックを菊姫に渡してファイネと魔物を探しに行く。


「カタカタカタ!」


「ここで待てって?」


 お互いが気を回す同士で不思議と意思の疎通が成り立つ。少し歩いたところでファイネを見送り待っていると、そう時間はかからず暗闇の中にヘルメットの灯りが見えてきた。


「カタカタカタカタカタ!」


 すでにその手には木刀の他に金属の剣と木の盾を持ち、遅れて素手のスケルトンが後ろを走ってくる。


――やってることは完全に追いはぎだ。


「カタカタ!」


「よし、やるか」






「カタカタカタカタカタ!」


「こっちに……」


 真澄が魔物を引きつけている間、菊姫は灯りで照らす行き止まりへファイネを招く。


「木刀を……」


「カタカタ?」


「スケルトンの武器じゃなく……」


 しどろもどろで木刀を受け取り、さらに脱いでもらった作業着とヘルメットを持って邪魔にならない場所へ置いた。


「さて……」


 菊姫はカメラを手にするが声をかけても無駄と次の行動に迷う。


「カタカタカタ!」


「ちょ、っと……!」


 ファイネは左手に持った盾を振りかぶるように構え、右手に持った剣を振り下ろした。真澄の怖がらせばいい、というアドバイスを完璧にこなすのだった。


「もう……」


 尻もちをついた菊姫はつきそうになる悪態を飲み込み、シャッターを切った。


「カタカタカタ?」


 上手くいきましたか、と真澄だと理解できる骨の震えも菊姫には難しい。


「ああ……でも、これから写真を撮っていくなら……」


――この程度で怖がってちゃダメかな。


 身を守るすべを持たないため、緊張状態はダンジョンへ入って以降ずっと続いていた。菊姫はその緊張を逃がすように深いため息をつく。


「こっちきて」


「カタカタ?」


 恐れずにファイネの手首を掴んで道の真ん中へ引っ張って座らせる。剣と盾を地面に置いて視線を作り、くつろいでいる最中に突然来た探索者と顔を合わせるという一枚を演出した。


 言葉通りに手取り足取り。会話をできなくても一度受け入れてしまえば簡単に解決する。本来ダンジョンでの撮影は探索者の助けが必要不可欠。写真の可能性を頼られたのは幸運な出来事だと、菊姫は思い改めた。


「目線は向こう!」


 それぞれ持つ目的が違っても互いのためにはなる。自分だけ仕事を放棄していられないと開き直って指を差し、ポーズを示しながら一枚二枚と写真を撮影するのだった。

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