毛皮の衿が付いた高価そうなレザーコート、素足にロングブーツ。自分がこの世の中心だと言いたげな、自信に満ちた態度――。重そうなドラムバッグを下げている他は、あの頃の美樹と同じだ。

 幸子はうめいた。

「美樹ちゃん……」

 美樹はじっと幸子を見つめる。

「幸子。ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって……」

 洋が叫ぶ。

「幸子のお父さんは⁉」

 美樹は泥がついたブーツのままリビングに入ると、玄関のドアを閉じた。幸子を見つめながら近づくと、ドラムバッグをテーブルの下に置く。かすかに溜め息をもらし、首を横に振った。

「急用が入って出られなくなったの」

 洋は動揺を見せた。

「何だって⁉ それじゃあ幸子さんに分かってもらえない」

「私の責任じゃないわよ。向こうの都合なんだから」

「連絡してくれればよかったのに」

「圏外だったの。でも、着替えは預かったわ。古いものばかりらしいけど。靴も用意してもらった」

 その時、幸子の鼻孔に強い香りが飛び込んだ。事件の香り――柑橘系のコロンだ。

〝まさか⁉ 美樹だったの⁉〟

 幸子は美樹の姿を目にして初めて、自分に襲いかかった不幸の正体を理解した。

〝父さんが来るなんて、嘘よ。浩一さんも関係ない。美樹なんだ……洋さんを奪った美樹が、また私を踏みつけようとしているんだ……〟

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