第3話 弱小冒険者の寄り道店舗は魔王を切り裂く剣となる。その二

 店を後にしミーコちゃん探しを再開するも、港にはミーコちゃんは見当たらなかった。

 藁にも縋る思いで以前聞いたミーコちゃんの通り道を捜索していると、この間の道具屋の通りに出る。

 再び、好奇心ともしかして『猫まっしぐら』がまだあるかもという楽観的な考えで店を目指していると、道具屋の看板が見えてきた。

 すると、扉は開き誰かでてきた。随分、ずんぐりむっくりの体格の人物で遠目からでもその人物の種族が分かった。


(ドワーフだ……)


 珍しい種族ではない(行きつけの酒場に酒好きのドワーフが集まる)があの道具屋にいったい何のようだと好奇心が沸く。

 続いてあのツインテールの店員が申し訳なさそうに眉をへの字に曲げ、出てくる。

 何やら二言三言会話を交わすと、ドワーフは肩を落とし路地に消えていった。


「こんにちわー。えーっと(そういえば名前を知らない)」


「あら、あんた確かこの間来た文無しじゃないか」


「ヨルクです! ヨルク・コンフォート」


「ああ、ヨルクってのかい。あたしはミルク。ミルク・スティーリア。このミネルバ屋の店主さ。で? またお得意さんでも紹介してくれんのかい? 前回はあの変なツボが二万ルノで売れたからね。いい商売したよ。まあ、おまけに『猫まっしぐら』つけてあげたけどさ」


 二万? 僕の時は五千ルノて言っていたけど。このミルクさんって人、かなり人を見るようだ。さすがは混沌街の住人。勇者のパーティにぼったくるとか恐れ入る。

 苦笑を浮かべる。


「あれはたまたまですよ。たまたま。タハハっ。それよりあのドワーフさんどうしたんですか? 随分、気落ちして帰っていったみたいですけど」


「ああ、あのドワーフ。鍛冶屋らしいんだけど、スランプらしくてね。それでうちにスランプ解消する便利なアイテムないかって訪ねてきたんだよ。まあうちは勇者ご一行御用達しの道具屋だろ? その噂を聞きつけたのかもしかしてと思って来てみたみたいだけど、生憎スランプを解消する道具なんてさすがのうちにも置いてないからね」


 ミルクさんは肩を竦める。

 一回買い物に来たくらいで堂々と勇者ご一行御用達の店と言うあたり、やっぱりこのミルクさんという人はとてもいい性格をしているみたいだとヨルクは頷く。


「で? あんたは?」


「え? タハハっ。僕はそのぉ~」


 とこれまでの経緯を話した。ミルクさんにじと目で「あんたきっと大成しないね」と言われた。

 そんなことはないとこれでも成果はあったのだと苦し紛れにさきほど訪れた魔法屋のことを話す。もちろんミルクさんは呆れながら聞いていたが、話が終わると何か考え込むように頬に手をあてる。


「ふーん。石や金属の声を聞く魔法ねー。その魔法屋はどこにあるっていったけ?」


「??」


 僕はミルクさんに魔法屋の場所を教える代わりにミーコちゃんの特徴を伝えもし見かけたら教えてほしいと告げ、そのまま『猫まっしぐら』のことを聞くのをすっかり忘れその場をあとにした。


 その後、夕日が街にとっぷり沈みこむまで探したが見当たらず腹が減ってきたので晩ご飯でも食べるかと、お馴染み安酒場に向かった。


「ようヨルク。ありがたく聞け! ミーコちゃんいたぞ」


 開口一番、同じく酒場に訪れていたハリスが僕を見つけ声をかけてきた。


「どこに!」


「まあ、聞いて驚け」


 僕はハリスの隣に腰かけると「ふんふん」と顔近づける。


「これは俺の知り合い冒険者が、『下水道の大ネズミ退治』を請負って地下に潜って大ネズミを退治してたという話なんだが」

 

 下水道……。まさか。いや、もう言わんとしていることは分かってしまった。


「そこでミーコちゃんの特徴まんまの猫を見かけたらしいんだ」


「……なるほど。つまり」


「そう、つまり。ミーコちゃんは下水道にいる。大ネズミの巣窟に」


「まじかよー。なんでよりもよって下水道に迷い込むんだよー」


 僕はがっくりと肩を落とした。


「残念だったな」


 ハリスが僕の肩にぽんっと手を置く。武器も持たぬお前じゃ探しに行くのは無理だなと暗に言っている。

 武器のないヨルクでは大ネズミのすむ下水道は荷が重い。だからといって他の仲間に一緒についてきてくれなどとは口が裂けても言えない。ドラゴン退治にパーティを集っているわけではないのだ。


 大ネズミは新人冒険者が経験を積むための序盤も序盤のモンスターなのだから。大ネズミが怖いからパーティを組もうなどとハリスにだって言えない。もし言おうものなら即刻、冒険者を廃業しろ向いていないと言われるのが落ちである。

 これは自分の力だけでなんとかしなければならないのだ。


 注文を取りに来たマルベルがハリスにそっとしておいてやってくれと言われ、小首を傾げ別の客の注文を取りに行くのに待ったをかけ、とりあえず一番安い料理だけなんとか注文したヨルクだったが。どうにも立ち直れそうにない。

 とりあえずやってきた料理を腹が減っては戦はできぬと掻き込み酒場を後にした。


 どうにか金を都合できないか。それとも武器を誰からか借りることはできないかと考えるが。そもそも武器は冒険者にとって命のつぎに大事なものである。それを他人に貸すなどできるわけもない。ならば金は? と考えるがそもそも金の余裕がある知り合いがいない。

 であれば、依頼主に前借は? と考えるがあの依頼主に弱みを握られることはなんとなく気が進まない。

 そもそもが安い武器を買えたとしても、だてに弱小冒険者と呼ばれちゃいない。武器さえもっていたら楽勝だなんて銅の剣を大ネズミに襲われ下水道に失くして逃げ出した自分に言えるわけがない。

 大ネズミにあっさりしっぽ撒いて逃げる自分の姿が容易に浮かんでくる。

 

「さて、どうするべきかー」

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