第5話 本当に好きになちゃうよ!EP2

春香の両手が私の頬に触れた。

少し冷たく感じる手の感触。でもそれは私の顔がものすごく熱くなっているから、そう感じるんだろう。


「ねぇ優奈。キスしてもいい」

えっ! キ、キスって。そんないきなり。私のファーストキス。


ああああああああ! いいよって言っていないのに、春香の顔が近づいてくる。そんな。でも春香のぷっくりとした柔らかそうな唇。欲しい。

重ねてほしい。私のこの唇に。

ただ重なるだけだよね。キスって。唇同士が触れるだけ。


……だよね。


「うぐっ!!」

ふわっとやわらかくて、ぷにゅっていう感じが唇に伝わる。

ああああああ! キスしちゃった。

この感触とても気持ちいい。不思議だね。こうしていると、なんだか落ち着いてくるような感じがするんだけど。でも今、私達キスしてるんだ。


その次の瞬間、唇にめり込んでくる春香の熱い舌が私の舌に触れた。

えっ! な、何これ。どうして、春香の舌が入ってくるの?

キスって言ったじゃない!!

――――もしかしてこれもキスなの?


熱いよう。春香、春香の舌ものすごく熱い。

ぐっと私を抱え込む春香の腕の力が強くなる。

だ、だめだよこれ以上は。これ以上進んだらもう私。ううん、私達戻れなくなちゃうんじゃないの。

森の奥深くに迷い込む私たち二人。この森にはもう私達しかいないんだ。

誰もいない、そして誰もこの森の中には入ることは出来ない。

入口も出口ももう閉ざされた世界。


二人だけの世界。

始めは驚いたけど、次第に何か溶け出してきそうな甘くてくすぐったい感覚が、頭の中いっぱいに広がっていく。

ああ、キスって気持ちいいんだ。

このままずっとこうしていたい。でもゆっくりと、春香の唇は私から離れていく。


じっとうつろな目で私の瞳を見つめる春香。

「キスしちゃったね」

ニコッとほほ笑んだその顔は少し赤みを帯びていた。

「怒ってない?」

私は顔をゆっくりとふった。


むしろまたしてほしい。またあのとろけるような感覚に浸っていたい。でもそれを私からは言えなかった。

でも欲しい。でも言えない。ああ、もどかしい。こんな性格の自分が恨めしいよぉ!

「もしかして優奈初めてだったの?」

恥ずかしかったけど、コクリとうなずいた。


「そっかぁ。私優奈のファーストキスもらちゃったんだ。ありがとう優奈」

なんか満足そうでそれでいてうれしい……、幸せっていう感じが伝わってくる春香の笑みを見ていると、胸のあたりがぽかぽかと温かくなってくるような気がする。

「あ、あのね。春香は初めてじゃなかったの……?」

な、なにを言っていいるんだ私、そんなこと春香に聞いちゃったら。

「ええっとね。うん、初めてじゃないよ。えへへ」

ちょっと恥ずかしそうにしながら春香は応えてくれた。

ものすごく恥ずかしかったけど、勝手に口が動いていた。


「あ、あのね。それってやっぱり……男の人とだよね」

きょとんとしながら春香は「ま、まぁ、そうなんだけど」

「それってクラスの男子? それとも違うクラスの男子?」

「あれぇ―、もしかして優奈気になるのぉ?」

あははは気にならないって言ったら嘘になるよね。ものすっごく気になるんですけど!

いったい誰なんだろう? 私の知っている人かなぁ。

だとしたら、学校で顔合わせるのものすごく気まずいんだけど。

春香は大丈夫なのかなぁ。


「気になるの? しりたい?」

小さくコクンをした。

「へへへ、そっかぁ―。優奈もしかしてもうヤキモチ妬いてくれちゃってたりするんだぁ。なんだかうれしいなぁ。でも……教えない」

へっ! そ、そんなぁ―――――――!!

「でもさぁ―、こうして女の子同士で本気でキスしたのは初めてだよ。あ、これも私のファーストキスになるのかなぁ」


にヘラと笑う春香の顔はとっても可愛い。

そして再び、そっと私達は……お互いの唇を重ね合わせた。



この文芸部の部室で……。

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