第17話 朽ちた星
「なんっかコスプレ臭いけど……まぁ、いいか」
早速スカートを折って短くしているミミカの横で、おさげで眼鏡のイツは膝を隠そうと奮闘している。
「み、ミミちゃん、短すぎよぉ」
「あ、下にスパッツもあるんでそこは安心して――」
ツクロイが補足を入れようとしたその時、ヤコは辺りの空気がざわっと揺れるのを感じた。
「どうした?」
すかさず表情を引き締めたレイが尋ねると、見張り台で双眼鏡を覗いていたクルーが強ばった表情で振り返る。
「レイさん、前方に何か……」
皆で外周リングを回り込み、進行方向の行き先に目を凝らす。すると、遠く彼方の砂漠にそれが見えてきた。がれきのような巨大な山は哀し気に打ち捨てられ、何体かの砂人形がわらわらとそこに群がっている。
「まさか……」
ハジメが漏らした声は、その場に居た全員の気持ちを代弁していた。
遠目からでも分かる、あそこに散らばっている残骸は、今自分たちが乗っている船と同じものだ。
「幼年組を船内へ」
そのあまりの凄惨さに、レイがそっと指示を出す。誘導組がさりげなく子供たちに見せないように避難させる横で、ヤコたちは言葉を失い立ち尽くしていた。
だんだんと見える距離まで近づいてくる。地に沈んだ船は二度と動くことはないだろう。大きくえぐられた窓は展望ルームだった物だ。人が乗っている気配は少しもなく、ただ船内から引きずり出された赤いコアに砂人形たちが群がっている。
「あの船は、守り切れなかったのか……」
ムジカの呟きに答える者はいない。あの船には自分たちと同じような境遇の子らが居たかもしれない。だが、彼らはもう……。
新衣装のお披露目会から一転、重苦しい空気が場を満たす。その時、青い顔をして船の残骸を見つめていたヤコが小さく「あ」と呟いた。
「で、でも、もしかしたらあの船以外にも、私たちと同じような船がこの世界のどこかに居るかも……ほら!」
彼女の指し示す先、興奮で震える指先には「Sirius」の文字が見えた。フォーマルハウトと同じ位置に刻印された船の名前だ。
「シリウスも、フォーマルハウトも、星の名前なんです、船の名前が星にちなんで付けられているのなら、この二つだけって事はない……、と、思うんですけど……えっと、その」
注目されている事に気づいたヤコの言葉が小さくなっていく。赤くなり黙り込んでしまった彼女を後押しするように、ニアがドーンとその背中を叩いた。
「ヤコちゃんいいね! 確かにその通りだよ」
「ひゃ!?」
ビックリして背筋を正すと、肩を組んできたニアが間近でウィンクをしていた。
「実を言うと、僕も前々からその可能性については考えてたんだ。全国各地の子どもたちがそれぞれの星船に乗せられてるんじゃないかってね」
その後押しに、ナナは大きな瞳をキラッと輝かせて両手を握りしめた。
「じゃあじゃあ、この砂漠世界を生き抜いていけば、いつか他の船とも出会えるかもしれないってこと!?」
「おいおい、そんな不確かな憶測をだな……」
相変わらず慎重なハジメが眉根を寄せながらストップを掛ける。だが隣にいたレイが微笑みながら話の流れを引き取った。
「だが、そういう希望を持つことは大事だろう?」
レイの纏う空気が変わる。全員から見える位置まで移動した彼女は右手をバッと振り、よく通る凛々しい声で宣言した。
「我らガードは諸君らを必ず守る! あの船のような事態には決してさせない。この制服に込めてくれた期待を裏切ることなく、戦う事をここに誓おう!」
ワァァとその場にいたクルーたちから歓声が上がる。さすがだなぁと見惚れていたヤコは、こちらに寄ってきた彼女がそっと囁く言葉に満面の笑みを浮かべた。
「ヤコ、ありがとう。あの空気を一転させてくれたのは助かった」
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