王立魔法学園の異端児(マーベリック)~元魔力0の魔法剣士、実力を隠して魔法学園へ入学する~

宇佐春人(旧緑茶)

第1章 魔法学園入学編

プロローグ

第1話 最弱と最強は紙一重

 幼い頃の記憶は次第に失われていくもの。

 だがオレには決して忘れることのできない、しかし思い出したくもない、けれども一言一句はっきりと呼び起こすことのできる記憶がある。

 それは6歳のとき、オレが覚えている2番目に古い記憶だ。


 オレが生を受けたリメリア王国。その都市部では、6歳の子ども全員に魔力適性の検査が行われる。

 たくさんの子どもたちが教会に集められた。

 オレの1つ前にいた子が検査を受けていた。


「オレンジ色に光った!」

「君は火属性じゃ、おめでとう」


 オレの前の子は自分の属性を知り、嬉しそうに駆けて行った。


「次は君の番じゃ。坊や、名前は?」

「ぼくローランド」

「この水晶玉に手を触れてみなさい、ローランド」

「うん」


 オレは言われた通りに、目の前にある真ん丸の水晶玉に右手で触る。

 水晶玉はひんやりとしている。だがそれだけで、何も起こらない。


「もう1回やってみなさい」


 一度手を放し、再び水晶玉に手を当てる。

 それでも、何の変化も起こらない。


「うむ、やはりそうか」


 老人は眉をひそめる。


「あの子、無能力者よ」

「可哀想ね」


 この老人だけでなく、周りにいる数人の大人の様子が変わったのは、当時のオレでもわかった。


「坊や、君は魔法を使うことができない。そんな君がこの国で生きていくことは困難じゃ」


 そう告げられ、ショックで言葉が出ない。

 自分も魔法を使って悪いドラゴンを倒したり、世界の色々な場所を冒険したり……そんな未来を子供ながらに思い描いていた。

 だがその未来は失われた。


「だが安心しなさい。世界は広い。君のような子でも生きていける場所は他にあるはずじゃ」


 そしてオレはこの国を、そして魔法の世界を追われることとなった。






 * * *






 それから時は経ち、オレは16歳となった。

 紆余曲折あり、今は故郷のリメリア王国に戻ることができた。

 今は杖を購入するために、杖を扱っている武器屋にいた。

 目を瞑り、流れ落ちる滝を思い浮かべながら魔法を詠唱する。


「アクア」


 僅かに目を開けると、杖の先端から豆粒ほどの光が溢れているのが見える。


「お客様、この杖なら……」


 ……発動しろ。そう強く念じる。

 目を閉じていても分かる。その光は段々と大きくなっている。

 今度こそいける。そう確信した。

 その瞬間杖は爆発を起こす。


「ゲホッ、ゲホッ」


 煙が部屋中に充満する。


「すみません。この杖も適合しないみたいです」


 木、金属、魔物の骨など様々な材質でできた杖を試したが、結局オレに適合する杖は見つからなかった。


「来月から王都の魔法学校に入学するので、どうしてもCランク以下の杖が必要なんですが……仕方ないですね」


 殺傷能力の低いCランク以下の武器でなければ、学校の授業で使用することができない。

 しかし貿易が盛んなこの街にもないとなると、入手はそうとう困難だろうな。


「お客様のお力になれなくて誠に申し訳ございません」

「いえ、気にしないでください。とりあえずこの杖を買います」


 そう言って代金を支払う。

 試した杖はどれも魔法を発動できなかったが、最後に試したこの木製の杖だけは何故か詠唱後にも壊れなかった。とりあえず何もないよりはいいだろう。


「それと、これはチップです」

「えー! こんなに貰ってもいいのですか!?」

「はい、色々とご迷惑をおかけしたので。では、失礼します」


 そしてオレは店を出た。


 この長い年月の旅で、わかったことがある。

 それは、オレには魔法が使えるということだ。

 だが相変わらず魔術は下手だ。

 なぜなら魔力が強すぎて、さっきのように失敗してしまうからだ。

 一応、それを解決する方法はある。性能のいい杖を使うことだ。

 だがこれからオレが赴く王立魔法学園では規定違反になりそれが使えない。

 さてどうしたものか。




――――――――――――


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