第23話 変わらない、それが1番いい

 俺たちの所属する私立白鷺学園は家から歩いて20分ぐらいの場所にある。電車賃を払わなくていいからという理由とある程度の偏差値を鑑みて選んだ。それに穂香が着いてきてたまたま同じ学校を選んだ涼と美萌もやってきたため現在まで続くグループができた。


あれから1年。今年のクラス替えはどうなることか、どこの席になるのか。などと考えながら歩いていると、


「どうしたの裕司?」


隣を歩いていた穂香が顔を覗いてきた。


「もしかしてクラス替えのこと?」


「ん?あぁ」


「また窓際の席がいいな、とも思ってるでしょ?」


「よく分かったな」


「何年裕司のそばにいると思ってるの?」


穂香に感心しながら歩いているといつの間にか学校に着いていた。


「クラス発表はまだだね」


「あと10分くらいだな」


10分前だというにも関わらず、クラス発表がされる校舎の中庭には既に多くの人が集まっていた。みんな新しいクラスが気になるのだろう。そう思っていると、


「裕司ー、みなすけと涼くん連れてきたよ」


そう穂香に言われて振り返ると涼と美萌がいた。っていうか、みなすけって美萌のことか?いつの間にあだ名ついたんだ。まぁいいか。


「今年もユージと同じクラスになることを祈ってるよ」


「本当に思ってるって口調じゃないんだが」


「本当に思ってるよ。1番同じクラスになりたいのは美萌だけどね」


「正直者だぁ」


などと話していると名前は忘れたが先生が数人、移動式のボードと大きな紙を携えやってきた。


「少し早いがクラス発表を行うことにした!」


周りにいた人がうおおお!と声をあげた。毎度のことだがこの学校の人たちは何かの発表があるとライブのような歓声をあげる。


「自分のクラスが分かったら早めに新しい教室へ移動してくれー。新しい教室はクラス発表の紙に書いてあるからちゃんとチェックしろよー」


その言葉とともにボードの紙がめくられ自分の名前を早く見つけたいがために生徒が一勢に前に詰めていった。合格発表のときと同じ雰囲気を感じた。

 同じクラスになれて喜ぶ者やクラスが離れて嘆く者、その場はカオスと化した。さて、俺のクラスはどこだろなー。ゆっくり探そうと思っていても名字が伊藤であるためすぐ見つかった。2年6組1番、それが今年の俺の番号か。そういえば穂香はどうなんだ?そう思って隣にいる穂香を見ると既に自分の番号を見つけたのかこちらを見つめていた。めちゃくちゃ笑顔だった。


「その反応ってことは…」


「うん!今年も同じクラスだよー!」


そう言って俺に飛びついてきた。


「いやぁ、今日もアツいねー」

「ほんとにねー」


そう言いながら涼と美萌が近づいてきた。


「はいはいほのちゃんそろそろ抱きつくの止めよっか。まわりの視線がすごいことになってるからね」


そう言われてまわりを見ると確かに羨望や嫉妬の視線がこちらに集中していた。ただ穂香はそれを気にせず、というか見ようともせずさらに抱きしめる力を強くした。穂香が抱きしめるのは結構気持ちいいんだが…


「穂香、俺からも悪いがそろそろ離してくれ。背骨が…結構…痛い…」


「ええー!ごめんね裕司ー!」


そう言って離れはしなかったが俺の背中を優しく撫でてくれた。結構気持ちいい。


「そういえば、涼たちは何組なんだ?」


「珍しいね、ユージがそれを気にするなんて。去年は俺たちが言うまで全然気にしてなかったのに」


「うるせぇ」


俺はそこまで非情な人間ではない。


「今年は6組、ユージたちと同じクラスだよ。もちろん、美萌もね」


「また4人で一緒だね!」


「今年もよろしく」


「お正月じゃないんだから…」


「まあ、とりあえず早く教室行こうぜ」


「「「はーい」」」


軽い報告と挨拶だけ済ませてあとから来る人の邪魔にならないように新しい教室へ移動する。その際も穂香はずっと俺にしがみついたままだった。


 新しい教室はまだ誰もいなかった。前の黒板に「お好きな席でお待ちくださいまし!」という多少おふざけが入った文字があった。4人全員が呆れに近い苦笑いを浮かべた。とりあえず好きな席に座っていいならということで窓際の1番後ろを俺が、その隣を穂香が、俺の1つ前の席を涼が、涼の隣を美萌が座って1つのかたまりができた。ただ穂香は椅子を俺のほうへ寄せてまたも俺にくっついていた。すごく幸せそうな表情をしている。


「ほのちゃーん、そろそろ離れたら?」


「えーやだー」


「ユージくんも黙ってないで嫌ならちゃんと伝えなよ?」


「こんな幸せそうな表情してるやつを簡単に引き離すのがちょっとな…。しばらくこうされておくよ。」


「ねーねー、裕司も抱きしめてー?」


「はいはい」


穂香に言われるがままに俺は穂香を抱きしめた。それを涼と美萌が微笑ましいものを見るように見つめていた。


 穂香の甘えに俺が付き合い、それを涼と美萌が近くで見ている。去年、いや中学のころから何も変わっちゃいないことだが、今の俺にとってこの平穏で幸せな時間が1番いい。







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