第6話 続く成長

「おい鍛冶屋、これも頼むぞ」

「ああ、明日の昼にはなんとかしておくよ」

「…………いいのか?」

「いいのかって、どういうこと?」

「いや、急な話だからよ」

「次からは気をつけてくれよな」

「お、おお……」


 首を傾げながら去って行く冒険者。

 夕食も迫ろうかという時間の、急な追加依頼だ。

 文句の一つも言われるかと思っていたのだが、思いがけずあっさり受け取られたことに冒険者は虚を突かれたのだった。

 しかしそれは、ルカが一つの可能性に気づいたためだ。

 ……これ、鎧鍛冶の仕事がレベル上げの鍵になってそうなんだよな。

 そう。忙しい仕事がそのまま【魔装鍛冶】のレベル上げにつながるのなら、これだけ『おいしい』場所は他にない。

 ギルドの冒険者たちが毎日次々と『経験値』を運び込んできてくれるのだから。


「なんか最近、すごく元気だね」


 そこに受付業務の隙を突いて、トリーシャがやって来た。


「そうか?」

「うん、そう見えるよ。それと今日はお昼もまだでしょ? はいこれ」


 受付カウンターの上に置かれたのは、サンドイッチトースト。


「これなら作業しながらでも食べやすいかなと思ったんだけど……」


 ただし、トリーシャの顔くらいの高さがある。


「すげえ……」


 こんがりと焼かれたトーストの間には、牛や豚、鶏肉を焼いたもの。その間に色とりどりの野菜やら目玉焼きやらが、とんでもない高さで積み重ねられてる。

 そしてそれらをまとめて上から鉄串で刺すという、壮観な見た目に思わず声が出た。


「栄養のためにっていろいろ挟んだら、こんなになっちゃった」


 てへへ、と笑ってみせるトリーシャ。


「ありがとな、トリーシャ」

「無理はしないでね」

「ああ、もちろん」

「おーい! 受付さーん!」

「はいはーい!」


 いつも通りの軽やかなステップで、仕事へと戻って行く。

 その可愛らしい笑顔と見事なスタイルに、冒険者たちの目が奪われる。

 受付嬢トリーシャは今日も、ギルドの人気者だ。


「さ、今日の仕事もあと少しだ」


 鍛冶場へ戻ったルカはさっそくサンドイッチにフォークを差しながら、持ち込まれたばかりの鎧の修理を開始する。

 選んだ具材の選定がいいためか、意外と美味いサンドイッチを食べつつ約一時間。


「はい今日の分終わりィ!」


 仕事道具をインベントリに戻して、ルカは声を上げた。


「ああ、今日もなかなか忙しかったな」


 肩と首を鳴らしながら、鍛冶場を閉める。


「……さて、お楽しみはここからだ」


 実は先日から、【魔装鍛冶】について色々と試していた。

 それによって少しだが、スキルの載り方なんかも分かってきていた。

 ルカはここで改めて確認しておくことにする。

 まずは先日【パワーレイズ】で作った右腕のガントレット。

 この効果からだ。


「ガントレットを単体で装着した場合、着けた部分だけが強化される」


 これは先日のガントレットであれば、右腕の力だけが強くなるということだ。


「ただし、ガントレットと同時に全身鎧を装着した場合は、全体の筋力も上げることができる」


 これをルカは、スキルの【全体化】と呼ぶことにした。

 ちなみに【耐衝撃】は、最初に作った胸部に搭載されていた。

 これも単体で装着した場合は、胸にのみ【耐衝撃】の効果が反映。

 他のパーツと同時に装着した場合は、【パワーレイズ】の右ガントレットも含めて【全体化】を起こしていた。


「要するに【魔装鍛冶】ってのは、『各パーツ』ごとにスキルを載せていくものってことだな。そのうえで【全体化】するっていうのが【魔装鍛冶】スキルの基本だ」


 これが、今の時点でルカが出した見解だった。


「よし、それじゃ今日もやりますか」


 ルカは一人、さっそく水見を開始する。

 水面に、ゆっくりと文字が映し出されていく。



【――――魔装鍛冶LvⅢ.耐魔法】

【――――魔装鍛冶LvⅣ.滑走跳躍】



「二つもレベルが上がってる!? ……いやちょっと待て、耐魔法ってマジかよ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る