拾った男の娘が可愛すぎて死にそうなんだけど、どうすればいい? ~何もかもが可愛すぎて尊死しそうなんだが?~

狐火いりす@『不知火の炎鳥転生』商業化!

第1話 男の娘を拾った

 愛犬の散歩がてら寄った夕暮れ時の公園で、私──九条伊織くじょういおりは男の娘を見つけた。


 肩まで伸ばしたサラサラの黒髪。パッチリ開かれた大きな瞳。日焼けしたことがないんじゃないかってくらいに透き通った白い肌。

 ホントに男なのか? って疑ってしまうほど清楚可憐な容姿をした彼は、暗い顔でブランコに座っていた。


 ……確か、浅桐蓮あさぎりれんだったか?


 私の通っている高校の隣のクラスの生徒だったから、顔と名前くらいは知っていた。

 知ってるだけで、ろくに話したことすらないけどな。


「なあ、シュバルツ?」

「わふ?」


 私はため息を吐きながら、愛犬に話しかける。

 ちなみにシュバルツは黒毛の柴犬だ。


「この状況で見過ごすって選択肢はあるか?」

「わんっ!」


 もう十年の付き合いになるシュバルツは「あるわけないやろ。鬼畜か」って返してきた。


「やっぱお前もそう思うよな」


 私は意を決して、蓮に話しかけた。


「こんなところで何やってんだ?」


 一目でわかるほど肩をビクッと震わせた蓮は、恐る恐る私を見上げる。


「…………九条さん?」


 身長は低いのに、それに反して蓮の声は高かった。

 私より声が高くてカワボとか意味わからん。



「なんだ。名前知ってんのか。それなら話ははえぇな」

「……なんで話しかけてきたの?」


 警戒心マックスの声音で聞いてくる蓮。

 まあ、無理もないか。


 私の身長は176センチと、そこらの男子より高い。

 それに加えて、真顔なのに睨んでいると勘違いされるほどの鋭い目つき。

 この二つのせいで、私はいつも怖がられてばっかだ。


 クラスのやつらからも露骨に避けられて、なんか気づいたらボッチになってたしな。


 当然、蓮も怖がるだろうと思ってたし実際怖がられてるけど、だからって無視はできねぇよ。


「こんなところで項垂うなだれてたら心配するに決まってんだろ」

「……心配してくれなくていいよ。ちょっと家出しただけだから。ボクは大丈夫だから……」


 強がっているのが丸分かりだった。


 何が大丈夫だ。無理すんなよ。

 今にも泣きそうな顔してんじゃねぇか。


 放っておいたら、すぐにでも壊れてしまいそうだ。

 「はい、そうですか」なんて、言えるわけなかった。


「帰る場所も行く場所もないんだろ?」

「……あったらこんなところにいないよ」

「だったら、私んに来い」

「えっ!?」


 半ば命令するような感じで提案したら、蓮は大きく目を見開いた。


「こんなところにいたら風邪ひくぞ」


 無理やり蓮の手を握って、立ち上がらせる。

 手のひらにぷにっとした柔らかい感触が伝わってきた。


 私より手が柔らかいとか、どういうことだってばよ。


「でも、九条さんに迷惑が……」

「私がいいって言ったらいいんだよ。なんか問題あるか?」


 自分でも呆れるくらい偉そうなセリフを真正面からぶつけたら、蓮は静かになった。

 手を握ったまま歩き出したら大人しくついてきてくれたので、私の気持ちはちゃんと伝わったようだ。



 ──こうして、私は男の娘を拾った。


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