第4話 二人目のヒロイン

「どうしてって、ハルも今日からここの生徒だからだよ!」

「生徒? 不審者の間違いでしょう?」


 突然現れた女性は、わざと周りに聞こえるようにしているのか、それともただ大声なだけかは定かではないが、肩をすくめながらら大きな声で言った。


 彼女もラブリーガールズに出てきたキャラクターだ。名前は確か……天条院てんじょういん カレン。


 俺と同じ学年で、端的に言ってしまうと、何かしらにつけて主人公やヒロインに突っかかってくる、ヒールキャラクターだ。


 プレイしてる時、こいつが出てくる度にイライラしてたな……別ゲーでは、悪役でも好きになれるキャラクターとかはいたけど、ぶっちゃけこいつは好きになれる要素が無い。


「思い出しましたわ! 今年から殿方が入ってくるって! もっと品があって教養のよさそうな殿方と思っておりましたが……なんですの? このみすぼらしいくて頭の悪そうな殿方は? あなた達もそう思うでしょう?」

「ええそうですね! 天条院様の仰る通りです!」

「こんないかにも庶民でみすぼらしい男が、伝統ある我が学園の男性第一号だなんて、汚名すぎるわ!」

「おーほっほっほっほっ! その通りとはいえ、そんなに言ったら可哀想ですわよ!」

「………………」


 天条院は、少し後ろにいた取り巻き達に持ち上げられて気分がいいのか、いかにもお嬢様がするような笑い方で辺りに声を響かせる。


 まあ見ての通り、突っかかってくるだけではなく、一々嫌味も言ってくる、傲慢な性格のキャラクターだ。


 一応美少女で巨乳ではあるんだけど、そんなの関係なくなるくらいウザイ。こんな奴を好きになれるやつは、かなりの猛者だろう。それかドM。


 ……プレイしてる時もウザいと思っていたけど、実際に目の前にするとウザさ一万倍くらいだな。初対面の人間にここまで言えるその胆力は、ある意味評価できるところ……か?


 前世のいじめられていた頃を思い出して嫌な気分になるし、こいつといたらソフィアに悪影響が出そうだし、どこからか通りすがりの生徒のヒソヒソ声が聞こえる。


 ……うん、さっさと離れるに限るな。


「ソフィア、さっさと教室に行こ――」

「ちょっと! 誰か知らないけど、アタシのハルを馬鹿にしないでよ!」

「あら、なんですのこの女? ワタクシを知らないなんて、つい先程生まれたのかしら? それともただの世間知らずの馬鹿?」


 俺が声をかけたのとほぼ同じタイミングで、ソフィアは眉間に深いシワを刻みながら、天条院の前に出た。


「まあいいわ。ワタクシを知らない、愚かで可哀想なあなたに教えてあげる! ワタクシは日本の大物政治家である、天条院 史郎の孫娘! 将来は日本を引っ張っていく事が約束されている、選ばれし人種なの!」


 天条院 史郎。この世界の政治界を牛耳る超大物政治家だったはずだ。


 確かに政治家は一家揃って政治家というのはよく聞く話だけど、こんな初対面で人を侮辱するような女が、日本を引っ張れるのだろうか? 普通に考えて無理だろ。


「そんなの知らないよ! 昨日アメリカから帰って来たばかりだし!」

「あらそうでしたの? この偉大なワタクシを知れるなんて、世界一幸運ね! しっかり覚えて帰りなさい! それくらいなら、馬鹿そうなあなたにもできるのではなくて? おーほっほっほっ!」

「アタシが馬鹿なのはいいけど、ハルを馬鹿にしないで!」


 まずいな。確かゲームでは、このままソフィアが天条院と言い争いになり、主人公がどうしようとオロオロする場面だった……はず。


 ゲーム通りに進めるなら、ここで俺は出しゃばらない方が良いのはわかってる。でも……俺を馬鹿にするのは百歩譲って良いとして、ソフィアを馬鹿にするのは許せない。


「それ、天条院議員が凄いだけであって、お前が凄いわけじゃないだろ?」

「はっ……?」

「な、貴様! 天条院様に向かって、なんて口の利き方をするんだ!」

「初対面の人間を相手に敬語も使えない愚か者だわ!」


 ソフィアを守るために、俺の後ろに行くように引っ張りながら言った言葉が信じられなかったのか、天条院はポカンと口を開けた――と思った矢先、青筋を顔中に立てはじめた。


 想像以上に怒ってるな。それに取り巻きがやたらと騒いでる。


 けど、そんなのは知った事ではない。こちとら大切な幼馴染が馬鹿にされて、はらわたが煮えくり返っているんだ。何か言ってやらないと気が済まない。


「初対面で人を馬鹿にするような連中が、敬語だなんだ言うなんて、新手のギャグか? お前らこそ教養を学んで出直してこい」

「は、ハル……?」

「ごめんソフィア。俺、ソフィアを馬鹿にするこいつらが許せない」


 俺の行動が全く予想できなかったんだろう。ソフィアは少し震える手で俺の服の裾をギュッと握っていた。


 ごめんな、こんな事に巻き込んじゃって……でも、俺はこいつとは敵対してでも、一言ガツンと言ってやらなきゃ気が済まない。


「ワタクシにたてつくだなんて、いい度胸ですわね……!」


 まさに一触即発な空気。そんな中、割って入るように一人の女生徒がやってきた。


「お前ら! こんな校門で喧嘩はやめないか! ここは聖マリア学園の校門! 沢山の生徒達が行き来する、いわば学生たちの聖なる道だ! それを汚すのは、私……生徒会長の西園寺さいおんじ 玲桜奈れおなが許すわけにはいかない!」


 一人の女性と共に、周りから黄色い悲鳴が湧きあがった。


 ストレートの黒髪をなびかせながら俺達の前に立った女生徒は、エメラルドグリーンの色をした目がきりっとして、身長は俺より高い。そしておっぱいの主張がやっぱりえぐい。バインバインだ。スカートから覗く綺麗な太ももも、目のやり場に困る。


 まあこのいかにも大和撫子ですって雰囲気の彼女……西園寺 玲桜奈さんは、実はラブリーガールズの二人目の攻略対象のキャラクターだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る