第12話 宝石の呪い

「裏切り者は、列車の中で死んでいたあの男よ。」

「それって、まさかムハマンド?」

と、意外な人物の名前に俺は驚いて聞き返した。


「そうなのよ~。」

「あの男はこの宝石を探していたのよ。」

と首にかけたペンダントを取り出した。


「そのペンダントを見せて欲しいのれす。」

教祖はペンダントを受け取ると、ペンダントについた宝石をじっと見つめた。


「これは確かに本物れす。」

「クレオパトラから密かに受け継がれてきた秘宝なのれす。」

「いまこの秘宝を狙って、いくつかの盗賊団が暗躍してるのれす。」


「ムハマンドがその盗賊団のメンバーだったのか。」

「そうなのよ~。」

「そして王子が日本に密入国したと知った盗賊団は、ムハマンドを日本に潜伏させたのよ。」

「寝台列車の死体を発見した後、デニーさんに頼まれて警察の極秘情報を調べましたっと。」

「そしたらその人、国際手配されていたや。」


 そんなことが。以前にエジプトで出会った頃は、ちょっとぼったくるけど陽気なアラブ人だったのに。


「そして、アオイも狙われていたのよ~。」

「これは推測だけど、アオイがエジプトに来るって知ったムハマンドは、アオイからも金品を奪おうとしていたのよ。」

「そう、空港に着いた時から、ずっとつけられていたのよ。」

「そしてホテルからスーツケースを持ち出したのもムハマンドね。」


「きっとアオイ独りだったら、ムハマンドのタクシーに乗せられて、身ぐるみはがれた末に殺されていたわ。」

「仕事の依頼はエサだったのよ~、恐ろしや。」

「アオイ、一緒にいた私たちに感謝するのよ~。」


 スーツケースを取り間違えたミスを責められたムハマンドは、タクシーに積み込まれた、あのスーツケースのバンドを見てホテルに来ていた。そして俺たちが寝静まったのを見計らって部屋から盗み出した。でも肝心の宝石はなく、二度のミスで後がなくなったムハマンドは、博物館で俺に接触して探りを入れにきたって訳か。


 そういえば、考古学博物館で会ったとき、彼はしきりに荷物の心配をしていた。あの時はちょっと違和感を感じたので、博物館に預けていた荷物を、とっさにホテルのクロークに荷物を預けたって出まかせを言った。第六感ってやつだろうか。


「そうなのれす。」

「ムハマンドは自分の経営していたタクシー会社が倒産して、財団に救いを求めてきたのれす。」

「この時は既に借金まみれになり、盗賊団に身売りをしていたのれす。」

「盗賊団の命令で財団に繋がりを持ち、情報を盗んでいたのれす。」

「困った人は助けるのがモットー、そして来るものは拒まないのれすが、しっかり身元調査はしているのれす。」


「王子のご遺体の入ったスーツケースは財団が取り返したのれすが、既に国王達は殺されており、王族は滅びてしまって宝石は行き場を失ったのれす。」

「このまま持っていると、奪いに来る盗賊団が後を絶たないので、一旦財団で預かりたいのれす。」

「日本でも水面下で捜査をしていると聞いているので、私から連絡いれるのれす。」


「ということは寝台列車に、宝石を奪いに乗り込んできていたのか。」

「そうなのね~、私たちの行動を知ったムハマンドは同じ列車に乗っていたのよ。」

「そして乗員名簿からデニーさんの部屋を調べたってことか。」

「おそらく車掌に賄賂を渡したのね~。」

「車掌とムハマンドはその時面識があったはずなのよ~。」


「しかしなんで死んだんだろう。」


「それは簡単なのよ~。」

と、デニーさんが説明を始めた。


 あの時、何者かが投石をして列車の運行妨害をして列車が止まった。そして、その投石でデニーさんがいるはずだった部屋の窓ガラスが割れた。その部屋で荷物を探していたムハマンドが、盗賊団からの合図だと思い反射的に窓の外を確認するために、割れた窓から頭を出して仲間を探した。

 よくある運行妨害で特に問題なしと判断した車掌は、列車の運行を再開した。この時ムハマンドは窓から頭を出しており、列車の急発進で体勢を崩して、自ら割れたガラスに首を刺してしまった。普通であれば考えにくい状況ではある。


「すべては推測の域をでないのよ~。」

「おそらく、盗賊団から相当のプレッシャーを受けていて、判断力が鈍っていたのね。おいたわしや~。」


 そして明け方、今度は盗賊団がムハマンドから宝石を回収するために、運行妨害をして列車を停めた。この時に俺たちはムハマンドの死体を発見することになる。これも推測だが、車掌が賄賂を積まれて盗賊団の手伝いをする手筈だったのだろう。部屋に施錠をしていなかったのは遺体を確認させるためだったのだろうか。


 宝石を巡って、俺たちが関わった限りで二人が亡くなった。


「これはいにしえからの宝石の呪いでしょうか。」

「呪いなんて存在しないのよ~。」

「そんなものがあるとすれば、自分が自分にかけているのね。」

「自分を追い詰めたり、欲に眼がくらんだり。」

「すべては考え方、気の持ちようなのよ~。」


「この宝石は財団に預けるわ~。」

「持っていると命がいくつあっても足りないのよ。」


 そう言うとデニーさんは教祖に宝石を渡した。

「ペンダントは気に入っているので、もらっておくわ~。」


「確かに宝石は預かったのれす。」

「近々ニュースにだしますれす。」

「デニーさんのスーツケースはアレキサンドリアにあるのれす。」

「飛行機を手配させるのれす。」


 教祖は我々が巻き込まれないよう、この事実を早々に公表することと、アレキサンドリア行きの航空券を手配してくれた。デニーさんは教祖から話しかけられ、何かを受け取っていた。


 俺たちは飛行機でアレキサンドリアへ向かう。デニーさんと葉山さんの滞在期限も迫っており、これが最後の移動になりそうだ。


「いざいかん、アレキサンドリア。」

「ところでカバに乗れるかしら。」


 

















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