4.嬉しい、けど少し……。








「え、Wデート……?」



 ――時はまたさかのぼって、昨夜。

 風呂から上がった絵麻は、親父からの提案を聞いて首を傾げた。

 目を丸くしている様子から見るに、彼女もまた突拍子のない提案だと思っているのだろう。実際、親父のそれは急な話に違いなかった。



「ほら、いきなりは無理だって」

「そうとは限らないだろう? な、絵麻ちゃん!」

「えーっと……」



 だから、俺はそう間を取り持ってなかったことにしようと試みる。

 絵麻は俺たちの言葉を聞いて、しばし考え込んでいた。唇に人差し指を当てて、思案すること数十秒ほど。義妹は恵梨香さんに目配せをしてから、こう言った。




「私も、少し興味があります!」――と。







 ……で、今に至るわけなのだけど。

 俺は前を歩く両親を見てから、手を繋いでいる絵麻を見た。

 恵梨香さんが選んだのだろうか。暖かそうな服装でありながら、いつもより愛らしさが増しているように思われた。そして、何よりも思ったのは――。



「絵麻、楽しそうだな」

「ん? そうかな」

「さっきから、ずっと笑ってるからな」

「えへへ! そうだったんだ!」



 絵麻が、本当に楽しげだということ。

 人の波の中、ほんの少し身を寄せて歩く彼女の顔から微笑みが絶えることはなかった。それどころか、先ほどからは鼻歌を口遊んでいる。

 どうやらこのデート、気が引けているのは俺だけのようだ。

 そう思っていると不意に、絵麻がこう言った。



「私ね、家族でこうやって遊びに出かけるの――夢だったの」

「夢、か……」

「うん!」



 そして、俺の顔を覗き込みながら満開の花を咲かせる。

 そういえば彼女は、父親のことをよく憶えていないと言っていた。もしかしたら、こうやって家族での外出自体、新鮮なものなのかもしれない。

 だとしたら、本当に嬉しいことなのだろう。

 そう思われた。



「……でも、少し恥ずかしいかも」

「え、どうしたんだ?」

「ううん! やっぱり、なんでもない!」



 だが、ふと絵麻はそんなことを口にする。

 嬉しいけれど少し恥ずかしい、それはどういうことだろうか。

 分からずに、こちらが首を傾げていると義妹は少し先を行って俺の手を引いた。早く行こうよ、とそう言って。



「……あぁ、分かったよ!」




 ――まぁ、今は置いておこう。

 俺はそう考え直して、両親の背中を絵麻と共に追いかけるのだった。



 






――――

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