6.新しい小園家の年末。








「今年も終わるねぇ」

「あぁ、そうだな。まさか、こんな年末を過ごすとは思わなかったけど」

「えへへ。私はとても嬉しいよ?」




 さすがに寒くなってきたので、俺と絵麻はコタツを引っ張り出してきた。

 ソファーの傍に設置して、二人で向かい合って入る。テレビでは大晦日の特番が、楽しげに放送されていた。

 いつも通りの年末。

 だけど、決定的に違うのはやはり――。



「ん、どうしたの。お兄ちゃん?」

「いや、なんていうか……」

「…………?」



 絵麻という少女が、すぐ向かいにいるということだった。

 つい一週間前までは互いにただの同級生。しかも、俺にとっては高嶺の花で、誰もが憧れる存在だった。そんな彼女がどうして、俺の家でコタツに入っているのか。

 改めて考えると、不思議な感じがした。


 あと、意外に受け入れている自分にも……。



「ねぇ、お兄ちゃんの家は毎年どう過ごしてたの?」

「ん、大晦日ってことか?」

「うん!」

「そうだなぁ……」



 そう思っていると、絵麻は小園家の正月について訊いてきた。

 だが、これといってイベントはない。今年は例外的に親父が旅行に出ているが、基本的にテレビで格闘技を見ているか、お笑い番組を見ているか、だ。

 だけど、先ほども言ったように今年は特別だ。

 だって絵麻という義妹ができて、初めての年越しなのだから。



「いつもなら、家でダラダラと年越しなんだけど。せっかくだし、お寺とか行ってみるか? その前に晩御飯食べないと、だけどさ」

「うん、いいねそれ! 私、誰かと年越しするの初めて!」

「え? 初めて?」

「……あはは、気にしないで!」



 俺の提案に、どこか含みのある言い方で応える絵麻。

 しかしすぐに笑顔になって、いつもの調子に戻るのだった。そして、



「そうだ! お蕎麦茹でよっか!」

「ん、買ってきたのか?」

「えへへ。せっかくだから、ね?」



 そう言って、キッチンへと行ってしまう。

 義妹がいなくなったリビング。奥から聞こえる彼女の鼻歌をBGMにして、俺はチャンネルを格闘技に変更した。でも、どこか集中できない。

 なんだろう、さっきの絵麻の一言は。


 誰かと過ごす初めての大晦日。

 そう言えば俺は、ちっとも絵麻のことを知らなかった。



「…………」



 つい先日まで、手の届かない存在だと思っていた女の子。

 でも、こうして触れ合うようになって勘違いは解けていった。だから、



「そうだな。俺は――」






 俺はもっと、絵麻と仲良くなりたい。

 素直にそう思うのだった。



 






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