2.意味が分かるともっと赤面する。









 用意されていた朝食を口に運ぶ。

 なにやら、いつもと味付けが違う気がした。卵焼きにしろ、みそ汁にしろ、すべて数段階上のグレードになっている。もしかして、恵梨香さんが作ったのだろうか。とにもかくにも、美味かった。

 自然と頬がほころぶそれを食べながら、俺はふと正面に座る絵麻に訊ねる。



「あれ、そういえば親父と恵梨香さんは……?」

「お母さんたち、ですか?」

「う、うん……」



 すると彼女はキョトンとして、こう答えるのだった。



「昨夜から、帰ってきてませんよ」

「はぁ!?」

「婚姻届けを提出した足で、そのままハネムーン――新婚旅行でハワイに行くそうです。とても仲がいいですよね!」

「そうだな、仲が良い――じゃなくてぇ!?」

「………………?」



 俺は箸をテーブルに叩きつけて、思わず立ち上がる。

 そして、信じられない事実について確認した。



「え、なに? 親父たち、いつ帰ってくるの……!?」



 絵麻は記憶を手繰るように、唇に人差し指を当てて考える。

 で、出てきた答えは想像を絶する期間だった。



「えっと、一月半ばくらいまで、だったと思います!」

「ぶふっ!?」



 ――おおよそ、一ヶ月!


 つまり、その期間はこの家に俺と絵麻の二人きり。

 年頃の男女を残して旅行に行く親が、どこにいるというのか。――あぁ、いや。それが俺たちの両親ということなんだけれども!!


 とかく、これはヤバい。

 なにがヤバいって、精神的にヤバい。

 だって、うつむき加減な視線を少し前に向けると……。



「…………どうしたの? お兄ちゃん」

「――――――!?」



 無垢な眼差しを向ける美少女がいるのだから!


 学校で見る時より当然、素に近いのだろう。

 口調といい、顔つきといい、どこか無防備な絵麻は首を傾げていた。

 おかしい。なにかが、おかしいことになっていた。俺は必死に思考を巡らせ、大きく深呼吸を繰り返す。そして、意を決して前を向いた時――。



「……あれ?」



 向かいの席から、彼女の姿が消えていた。

 どこにいったのだろう。そう考えて呆けていると、すぐ隣から声がした。



「お兄ちゃんっ!」

「ひゃん!?」



 甘えるようなそれの直後、頬を突かれた!?

 思わず嬌声を上げてしまった俺は、慌てて絵麻の声のした方を見る。するとそこには卵焼きを箸で取り、こちらに差し出す彼女の姿があった。

 顔が熱い。

 もう、頭も回らない。

 そう思っていると、絵麻は俺にこう言った。



「はい、あ~んっ!」



 …………。

 ………………。



「……あ~ん」




 もう無抵抗に、俺は大口を開ける。

 そこに、卵焼きを優しく入れてくる絵麻。

 ほのかに甘い卵は、噛めばすぐに解けてしまった。



「おいしい?」

「…………はい」

「えへへっ!」



 俺の返答に、満面の笑みを浮かべる義妹。

 もう何も考えられない。



 とりあえず、今はこの謎の流れに身を委ねることにするのだった。







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