第七話 お勉強の時間

 損傷を負い、人形ドールの電源が強制的に切られたことを確認したディアは王女を近くに呼び寄せ、剣を刺した後どう行動すべきか教授する。


「まず、よく見ずともわかるとは思うが、突き刺さっているレイピアは斜めに入っているだろう?」

「そうね。右肩から胸に向くように」


「まあ、この人形の構造が人間同様になっているとは思えない。ここまで綺麗に貫通することなんて殆どないからな」

「それは骨があるからってこと?」


「それもあるし、相手も瞬時に刺されたと判断すれば力を入れて止めてくるからだ」


 彼の態度は気に食わないものの、言っていることは経験則からなるもの故、質問を交えて大人しく聞き続ける。


「ではこのような場合、どう対処すべきなのか。まず第一に無理に抜き取ろうとしないこと。この武器自体、破壊力に長けている部分はない。基本はヒット&アウェイで戦うことを忘れずにな」

「なら、この授業意味あるの?」

「一応のための知識だ。備えあれば憂いなしって言うだろ」


 まあ、いいかと一応耳に入れる王女。

 王妃はなんでもディアから話が聞けるなら満足だと言わんばかりにニコニコしたままだ。老執事はもはや眠たい時間なのかさっきからずっとウトウトしている。


「抜き取ろうとしてもさっきの理由で時間を取られることがあるからな。かといって、そのまま戦うのもリスクがある。そこでひとつ重要なのは敵の戦力を削ぐこと。さすがに相手は機敏に動けないだろうからそこで武器を落とさせるんだ」

「たしかにロングソードならそもそも振り回せないし、片手剣なら軌道を読みやすくはあるわね」

「そうだ。あくまで動かせるのは片手ということを踏まえていれば範囲も想定できる。そこは完全に自分の動体視力との勝負になるが、とにかくは無理に抜き取らないこと、無為に突っ込みすぎないことを意識しておけばそれでいい」


「ふんふん、なるほどね。じゃあ、次は本来の戦術について教えてほしいのだけど」

「もちろん構わないが、王女が戦うことなんてあるのか?」

「憂いあれば備えなしでしょ?」

「フッ、あー、そうだな」


 つい吹き出してしまい、バレないようにすぐ後ろを向く。王妃も同様にプルプル震え、笑いを収めるので必死だ。


「どうしたの、ハントゥース」

「い、いや、なんでもないよ。とにかく、お望み通りヒット&アウェイについて話していこう」


 なにがなんだかといった様子で王女は把握しきれていないモヤモヤを残しながらも、話の続きを早く聞きたいと今はそちらに意識を向けている。

 それに助けられたディアは過去の自分も使用していた戦法について話を始めていく。


「基本はこの鋭い剣先で牽制しながらかすり傷程度でもいいから痛みを蓄積させていくこと。この武器の利点は距離を稼ぎながら相手の奇策に対応できるところにある。それゆえに無理に前に出ず、適度な距離感を意識して戦い、相手のフラストレーションを溜めるのも有効手だ」

「なんだか姑息ね。まるで貴族が使うような手じゃないわ」


 お決まりの文句。その言葉は昔嫌というほど聞かされた。


「そんなの敗者の言い訳に過ぎない。いいか? どの武器にも長所と短所がある。それをうまく使いこなせるかが勝負の鍵なんだ。それを理解もせず、実践も出来ずにあーだこーだ口を挟むのは惨めだぞ」

「じゃあ、その長所と短所を教えてよ」


 態度はどうであれ、徐々に質問もはっきりと出るようになり、興味を抱いているのがよく伝わってくるディアはそれに快く頷きを返す。

 愛用していたレイピアを馬鹿にされるのは気に食わないが、それでもこの調子でいけば理解は得られそうだと見込みがある限り彼の口は止まらない。


「それなら実際に武器を使って教えよう。執事さん、ロングソードとショートソードを一つずつ、それから木でつくられたもので構いませんから打ち込み用の人形を用意してもらえませんか?」

「はっ、はい! なんでようか?」


 ほんの少し睡眠状態に入っていた老執事は言葉を噛みながらハッと瞼を上げた。

 ディアはその姿に苦笑して今度はゆっくりと大きな声で用件を伝える。


「かしこまりました! 今すぐに!」


 慌てて人形が多く仕舞われている倉庫のなかへ入っていく後ろ姿は残った三人の表情を明るくさせるのには十分微笑ましいものだった。

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