第4話

ゲート内部が崩れ始める。

ゲートが閉じる。

ガラガラと物音を立てて崩れていく。


「……どうなるんだ。」


ゲートが閉じた時、その後がどうなるかなんて誰も知らない。

なぜなら、それを経験して生きて帰ってきた人はいないのだから。


一説によれば別の空間で生きているや閉じたゲートはその膨大な魔力でブラックホールを形成しているなど憶測は飛び交っている。

しかし、どちらにしたって俺の結果は知れていた。

出血は収まりを知らずにとめどなく流れ続ける。

体にはもう力が入らない。

服一つだけでも何十キロもある重りを背負っているような感じがする。


最後に見る顔がアレか…


アレとはずっと祭壇を見つめている騎士型のモンスターの事だ。

崩れゆくゲートの中で微動だにせず、ずっと祭壇を見上げている。


てか、お前ボスじゃなかったのかよ。


このゲートは閉じる。

つまり、アイツはボスじゃない。

なら、このゲートのボスは一体なんなのか……。

……まあ、いいか。どうせ死ぬ。

ゲートが閉じるのが先か失血死で死ぬのが先かは分からないが。


はーっと白い息を吐いた。

「……なんか、寒くないな。」


手足の感覚は既になくなっている。

鈍く腹部の痛みがまだ生きていると教えてくれる。

しかし、死の足音がすぐそばまで聞こえて来ている気がした。


今、頭を少しでも下げたら脳に血液が回らず一瞬で意識は飛ぶだろう。

だから、少しでも生き永らえたくて頭上を見上げた。

僅かでも霜崎晶と言う人間で生き続ける為に光を見上げた。


ただ見上げたはいいが何をしたらいいのか分からずボッーとしていた。

脳に血液が足りずにそうなっているだけかもしれないが。

もう、何かを考える力さえも残っていなかった。

生きてきた記憶を軌跡を辿るだけの思考を持ち合わせていなかった。

おかげで悲しみという感情が芽生えない。

なのに、涙は出続ける。

鼻水も出る。

だが、鼻水は啜る力さえも残っていないから頬を伝って涙と混じり滴り落ちる。


もう、焦点すら合わない。

だからか、あの頭上に7つの光がゆっくりと落ちてきているように感じた。

眩く光それらはよりいっそう光を強くしていく。


「……あ、違う…」


本当に落ちてきていた。

焦点が合わなくても同じ目線まで落ちてこればさすがにわかった。

7つの光は祭壇を取り囲んでいた。

プカプカと浮遊し、静止したかと思えばゆっくりと祭壇に近づき、7つの光は隣り合う光と重なった。

もし、同じように7つの光がなっているのならきっと祭壇を取り囲む円となっている。

それを確認はできないが視界の上隅が僅かに明るい事から多分そうだろう。


「……ほっといても死ぬぞ。」


このゲートを閉ざそうとした恨みなのか、ゲートの意思が俺を殺そうとしている。

そうなんとなく思った。

この光は俺を殺すモノだとそう思った。


……悪いな。


しかし、ゲートが俺を殺すよりも早く、天からの迎えの方が一歩早かったらしい。

光が俺に触れる前に意識が遠くなり始める。

感覚がどんどん遠くなる。

視界が霞んでいく。

視界が狭まり、暗く、黒く塗りつぶされていく。


最後に残る感覚は耳というのは本当らしい。

目が見えなくなった。

瓦礫が地面に落ちていく音はしっかりと鼓膜に響いていた。 


パッン!

何かが弾けた音が聞こえた。

何が弾けたのかは目が見えない以上確認する術はなかった。


『器は成したか。』


……誰だ…


年老いた男の声。

道門さんよりももっと太く老いた声。

聞きなれない声。

知らない人の声だった。


『私か?私はの名は@#/』


……聞こえ…ない


綺麗に名前の部分が聞き取れない。

ノイズがかかったような音が耳に届いた。

まるで、1人ではない2人くらいか?

同時に話しているような気がする。

しかし、その男はそれに気がついていないように思えた。


『……そうか。

あやつらがまた余計な事を……。

時は十分に満ちたといえるだろうに。』


……。

何か言っているそんな気がした。

耳すらも聞こえなくなっていた。

海底にいるかのように静かで聞こえる音は水面に打ち消されて。

ポコポコッとそんな水で息を吐いた時のようなそんな音が聞こえてきそうだ。

もう、生きているのか死んでいるのかもわからない。

ただ、あたりはとても静かになっていた。

痛みももう無くなっていた。

冷えた体もいつのまにか暖かい……--


『……時間がない。

私は此奴に決めたぞ。

文句はあるまい。』


黒い人影は晶の胸に手を触れると黒いうごめく闇が伸びた。

その闇が晶を包み込んでいく。

そして、闇は晶を伝い、祭壇、床、壁、天井と闇は晶だけでなく、この部屋もゲート内部も死んでしまった人達すらも一切の光すらも飲み込むように闇を広げ、侵食していく。


無限に伸びていく影はいつしか見渡す限りの真っ暗な空間を作っていた。

そして、傷だらけの少年と男だけを淡い魔力の光が照らし出している。

黒い人影は目の前で眠る傷だらけの少年を見ていた。



『悪いが付き合ってもらうぞ。』






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