第30話 初めて交わした挨拶
僕には
ある時、幼稚園から返ってくると、お母さんからこんなことを言われました。
「今度、
「チョコレート?」
意味がわからず、僕はお母さんに聞きました。
「もうすぐバレンタインじゃない。バレンタインは女の子が好きな男の子にチョコレートをあげるのよ」
お母さんはとても楽しそうでした。でも、僕にはますます意味がよくわかりませんでした。
「僕が
なんとなく、
「う~ん、かずくんは
お母さんがそう聞いてきました。僕は大きくうなずきました。
「じゃあ、お母さんとチョコレート作ろうか」
お母さんはそう言ってくれました。僕はそれがとても嬉しかったのを覚えています。
バレンタイン当日。僕はお母さんと一緒に作ったチョコレートを
「どうしたの?」
なぜ泣いてしまったのかわからなくて、僕はおろおろしながら尋ねました。
「すごく嬉しい。ありがとう」
「さっき間違えて捨てちゃったんだけど、もらってくれる?」
「もちろん! とっても嬉しい、ありがとう」
すると、
僕たちは小学生になりました。
そんな僕のヒーローの
「あら、
「こんにちは。
すると、
「いるにはいるんだけど、お部屋から出てこないの」
それを聞いて、僕はますます心配になりました。
「病気ですか?」
そう尋ねると、
「そうじゃなくて、ちょっと元気がないみたいなの。でも、
そう言って、家の中に入れてくれました。
「何かあったら声をかけてね」
「
僕は部屋の中に向かって話しかけました。
「かずくん?」
「そうだよ、僕だよ。お部屋に入ってもいい?」
そう聞くと、
「中に入って話そう?」
そう言うと、
「何かあったの?」
僕がそう尋ねると、
「お母さんがその服を着ていけって言って、嫌だって言ったらケンカになっちゃって」
「見てもいい?」
そう尋ねると、
「お母さんがこれを着なさいって言ったの?」
「うん。女の子なんだから、可愛くしなくちゃって言われて。でも、そんなの絶対に着たくない」
「じゃあ、代わりに僕が着てもいい?」
僕はそう尋ねました。すると、
「着たいの?」
そう聞かれたので、僕は黙って頷きました。
「じゃあ、私がかずくんの服を着てもいい?」
「もちろん!」
僕は元気にそう答えました。
その後、2人で背中合わせで着替えてから、鏡の前に立ってみました。
「かずくんかわいいね」
「
僕もお返しにそう言って、2人して照れたように笑いました。その日、僕たちは暗くなるまで服を交換したまま遊びました。
それから僕たちは2人きりで遊ぶとき、こっそり服の取り換えっこをするようになりました。僕は
「あのね、私、本当の名前を考えたの」
ある日、いつものように服を交換すると、
「本当の名前?」
僕が不思議に思ってそう聞くと、
「
「俺は本当はコウっていうんだ」
それがとっても似合っていて、僕はとても嬉しくなりました。
「そうだね! そうに違いないよ! じゃあ、私はきっとハルだと思う」
それは自然と私の口から出た言葉でした。それが妙に胸になじんで、それこそ、『これが本当の名前だ』と思えました。
「そうだね。改めてよろしく、ハル」
コウはそう言って、手を出しました。
「よろしくね、コウ」
私もそう言って、私たちは握手をしました。本当の名前で、本当の姿で、初めて交わした挨拶でした。
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