第22話 最後の悪あがき
卒業パーティーに出席していながら、単位が足りずに卒業は出来ないと学長に告げられたアーサー。
『あの方、確かに卒業式典ではお見かけしなかったものね。』
『あの様子だと、留年だって今知ったみたいですけれど、あんな目立つことまでした後にねぇ。』
『あのピンク髪の男爵令嬢も、パートナーに入場の権利がないのでは、そもそもパーティーに参加出来ないんじゃないのか?』
あらあら、二人ともすっかり噂の的じゃない。
あれだけ二人して悪目立ちしたんだから当たり前だけど。
アーサー、式典にもちゃんと出てればその場で留年に気づけたんだろうに、楽しいパーティーだけ出席しようとするからいけないのよ。
エリザベスは、信じられないといった表情で、跪くアーサーをただ見つめていた。
「エリザベス嬢、もうわかっていると思うが、君にはこのパーティーの参加資格がない。直ちにここから出ていきたまえ。男爵には君の言動を私から報告しておく。アメリア嬢への暴言は決して許されるものではない。覚悟しておくように。」
彼女に冷たく告げる学長。
しかし、エリザベスはキッと顔を上げると叫んだ。
「誤解ですわ!私の発言は、劇の台詞だったんです!劇を盛り上げる為に言っただけで、本心でも事実でもありません!!ね?アーサー様、そうですよね?」
「そ、そうだ!俺達は良かれと思ってやったことだ。断じて暴言などではない!!」
ええええええええ??????
いやいやいや、それは無理があるでしょ!
あれだけ私達の劇を邪魔しておいて、今更仲間の演者気取り?
さっきまで項垂れていた二人が、活路を見出だしたとばかりに生き生きと言い返してくる。
エリザベス、その頭の回転の速さとメンタルの強さ、他でうまく使えたら良かったのにね。
あまりの言い分に、ずっと観劇していた参加者もドン引きしている。
「お前達、いい加減にしないか!!これ以上私に恥をかかせないでくれ!!」
伯爵がキレた。
「そこの男爵令嬢、パーティーの参加資格がない君には劇の参加資格もない。くだらない言い訳をして罪を重ねる前に大人しく出ていくことだ。警備隊!彼女を早くこの場から連れ出してくれ!!」
「きゃっ、離して!!私は悪くないんだってば!!言わされただけなのー!!」
ズルズルと警備の男性に引きずられながらも、まだ叫び続けているエリザベス。
ようやく扉が閉まり、会場は静かになった。
最後まで悪あがきが凄かったわ。
全く反省してないし。
取り残されたアーサーが、一人気まずそうにキョロキョロしながら立っている。
「さて、アーサー。私はお前が卒業し、このパーティーでアメリア嬢と婚約をすると手紙に書いてあったから、わざわざ領地から戻ってきたのだが?何か釈明することはあるか?」
「いやー、その予定だったんですが。あ、大丈夫です!まだアメリアのことは諦めていません!!」
「愚か者がーーー!!」
あら、まだ私と婚約する気でいたの?
何が大丈夫なのか意味不明だし。
伯爵が現れたのも、まさかアーサーの手紙のせいだとは。
せっかく領地から出てきたのに、顔に泥を塗られて、伯爵の血管がブチ切れちゃわないか心配になってきたわ。
「アメリア嬢、愚息が迷惑をかけ続けて申し訳なかった。これも全て領地に籠り、息子の成長を見届けてこなかった私の責任だ。ご両親にも謝罪に伺うつもりだ。アーサーは領地に連れていき、厳しく躾直す。今後は近付かせないから安心して欲しい。」
伯爵から丁寧な謝罪を受け、私は戸惑ってしまう。
慌てて、「とんでもございません。恐れ入ります。」とだけ返事をし、頭を下げた。
後ろでセレンが『やった!同級生にならないで済んだわー。』と小声で喜んでいる。
ほんと、父親はまともなのに、なんで息子はあんな風になっちゃったんだか。
教育は受けてたはずだから、やっぱり性格の問題?
これから領地で伯爵に迷惑かけなきゃいいけど。
「クロード君、君にも息子が迷惑をかけた。許して欲しい。」
伯爵の真摯な態度に、
「大丈夫です。僕達二人にとってはいいスパイスになりましたよ。」
などと、軽い口調で返すクロード。
恥ずかしいから、ぺちっと腕を叩いて抗議しておいた。
その後、伯爵自らアーサーを引きずって会場をあとにし、残された参加者には伯爵からお詫びの飲み物が振る舞われた。
領地の名産品らしい。
アーサーは最後までアメリアの名前を呼んでいた。
「あの執着心には驚かされるな」とクロードがため息混じりに呟いていた。
パーティーが正常に戻りつつある中、学長が退席するようだ。
「諸君、今日のパーティーは色々あったが、きっといい思い出になるだろう。あと一つ、余興が残っているみたいだ。是非楽しんでくれたまえ。」
そう言って、左胸をトントンと叩くジェスチャーをし、クロードにウィンクをすると、静かに去っていった。
もう一つ余興なんてあったっけ?
クエスチョンを浮かべたアメリアに、最後の、そして最大のサプライズが待ち受けていた。
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