第14話 パーティー当日の朝
とうとう卒業パーティー当日の朝を迎えた。
私は興奮が抑えきれず、予定よりだいぶ早く目が覚めてしまった。
もう一度眠ろうと試みたが目が冴えてしまい、ベッドの中でゴロゴロと時間を潰している。
いよいよ今日が本番ね。
断罪劇の台詞はバッチリ覚えたし、パーティー参加者の皆も楽しんで観てくれるといいな。
いえ、きっと楽しんでくれるはず・・・。
学長からの太鼓判も貰ったしね。
自分の出番を頭の中で復習したり、ブツブツ台詞を唱えたりしてみる。
あー、もう、落ち着かない!
起きるには早いけど、やっぱり起きちゃおう。
私がガバッと身を起こしたタイミングでノックの音が聴こえ、まるでわかっていたかのようにマーサが顔を出した。
「お嬢様、おはようございます。やはりもうお目覚めでいらっしゃいましたか。」
「おはよう、マーサ。よくわかったわね。ドキドキして寝ていられなくて。」
「ふふっ。心配なさらなくても、全てうまくいきますよ。」
マーサに言われると、本当にうまくいきそうな気がする。
マーサにも、クロードに打ち明けた後、前世の記憶を取り戻したことを話した。
「なぜもっと早く言ってくださらなかったのですか!」と泣かれてしまったが、違和感の原因がわかり、安心していた。
たまに私が、マーサの見たことのない表情をしていたらしい。
「いつもありがとう、マーサ。」
見守っていてくれるマーサに、私ははにかんだ笑顔でお礼を言った。
今日の卒業パーティーは、学院の大ホールで催される。
本来なら婚約者のクロードがエスコートをしてくれるはずなのだが、生徒会役員の集合時間が早いのと、劇で婚約破棄の真似をする為、あえて今回は別々に現地集合することにした。
エスコート出来ない代わりにと、クロードからは素敵なドレスがあらかじめ贈られている。
「よくお似合いですよ、お嬢様。」
ドレスを身にまとい、髪を結い上げた私を、様々な角度から点検をした後にマーサが称賛してくれる。
クロードから贈られたドレスは、深紅でシルエットが大人っぽいデザインのものだった。
マーメイドラインが上品で、アメリアの雰囲気によく合っていた。
さすが、クロード。
アメリアの華やかな顔とスラッとした体型にはよく似合ってるわ。
理亜の日本人顔とスタイルじゃ、着こなせなかった気がする。
ま、日本でこんなドレスを着る機会なんてほとんどないからいいけど。
悪役令嬢を演じるにはピッタリね。
ちなみに、ヒロイン役のセレンはピンクのドレスを用意したと言っていた。
ピンク髪でも男爵令嬢でもないので、せめてドレスだけでもピンク色にするらしい。
なるべく忠実にヒロイン役を全うしようとするセレンが可愛いと思う。
思い出して口元が笑ってしまったが、テーブルに置いたままになっていた封筒が目に入り、思わず眉が寄ってしまった。
それはアーサーからの手紙であった。
中身を理亜的に率直に言えば、
『卒業パーティーは、俺様がエスコートしてやってもいいぞ。光栄だろう?』
という、なんとも相変わらず腹立たしい文面で。
もちろん丁重にお断りをし、婚約者がいるから今後は関わるなという内容をオブラートに包んで返事をしたのだが、果たして伝わっているかどうか。
オブラートは必要なかったかもしれない。
しかし、今回は物的証拠もある為、初めて家族にも相談してみた。
マーサには、今までのアメリアだったら一人で抱えて悩んでいたはずだから、いい傾向だと喜ばれてしまった。
両親も薄々気付いていたらしく、憤慨していたが、アーサーの父親は常識的な人物である為、もう少し様子を見ることになった。
まあ、今日卒業さえしてしまえば、学院ほど顔を合わせる心配もないし、ようやく絡まれる日々とさよならできると、私は胸を撫で下ろす。
弟が心配そうに手を握ってくれたのがとにかく可愛く、癒された。
心強い家族が居てくれる。
私は気持ちを切り替えて、残りの準備を終わらせたのだった。
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