プロローグ②:落し子サリオン

 ボクの名はヴァン・サリオン・レーヴァ。

 レーンドラ北部に位置するウルスス連王国の人間族ノイエ元老院に席を持つ大貴族家の一つ、ヴァン家グラム・フィオナの庶子。

 ただでさえ微妙な立場の生まれにも関わらず、母はウルススの妖精族ティーエとは微妙な関係にある、黒い森の黒の妖精族デック・ティーエ

 人間族ノイエ妖精族ティーエも髪も肌も白いウルスス人には珍しく、ボクは黒髪に、浅黒い褐色の肌をしていた。

 その上、人間族ノイエか、女性しか生まれない妖精族ティーエのどちらかとして生まれてくるはずのところを、ボクは妖精族ティーエの男児として生を受けた。

 長い寿命をもつ故に、女性しか生まれないとされる妖精族ティーエの男児は非常に稀で、ウルススの伝統的に妖精族ティーエの男性としては扱われるが、その実、男性器も女性器も持って生まれてくる半陰陽であることが、奇怪で、不吉なものとして忌避されていた。

 出生、種族、性別に至るまで。

 生まれる前に選択していたのだとしたら、忌み嫌われる要素の大半を選んで生まれたのがボクだった。

 そして、生まれたのがウルススでも有力なヴァン家の長子であったことは、ボクにとって幸運であり、不幸でもあった。

 庶子でも家督を継ぐ権利を有するウルスス故に、ボクのような身体のものですら跡継ぎとして育てられ、そして暗殺されそうになった回数は両手では足りなかった。


 妾の子。

 黒の妖精族デック・ティーエの落とし子。

 汚らわしい妖精族ティーエの男。


 直接手を下そうとした者たちの血走った眼は、ヴァン家のためと言いながら、ボクへの正体の分からない恐怖や怯えで溢れていた。


「くだらない連中をあしらえるだけの知恵をつけよ」


 冷徹な父はそう言って暗殺の首謀者を見つけ出し、秘密裏に処した。

 ある者は僻地に送られ、ある者は家を追放され、ある者は逆に暗殺された。

 そんな冷血な父に生かされ、ヴァン家という広い檻の中で育った。

 ボクの首には、見えない首輪が付いている。

 ヴァン家には男子が居なかったからだ。

 出来損ないだろうと、落し子だろうと、ヴァン家の長子には変わりない。

 父ヴァン・グラムはボクをヴァン家の別邸に縛り付けたが、そのおかげで、ボクは十五まで無事に生きることが出来た。

 見えない鎖に繋がれることの引き換えとしても、酷く幸運な事だったのかも知れない。


 十五の誕生日。

 二人きりの晩餐の席で、ボクは父から弟が生まれたことを知らされた。

 正妻の子。

 正当なヴァン家の跡取りだ。

 これで父にとって、ヴァン家に連なる人たちにとって、ボクの価値は無くなっただろうと、そう思った。


「お前は何を望む?」


 そう聞かれ、ボクは答えた。


「冒険者になります」


 父は「そうか」とだけ言って、食事を切り上げた。

 冒険者訓練所の入所手続きの書簡が屋敷に届いたのは、翌日のことだった。

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