第14話 地上の太陽 -スカイツリーデート-

香月のアパート 午前7時

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遠足前の小学生のごとく、香月は早々に起きだしコインパーキングに止めていた父親のBMWで近くのスタンドへ直行した。


梅雨はしばらく明けそうにないが週末までは貴重な梅雨の晴れ間らしい。

スタンドの屋根の向こうに広がる真っ青な空。

本当にラッキーだ!


いつもはバイクの香月が車できたことに馴染みの店員が「デートですか?」とからかう声にも臆面もなく「わかるー?」と笑顔を返す。


車はボディも内装もピッカピカ。

親父が煙草をやめてくれていてよかったよ。

ガソリンは満タン、タイヤの空気圧もバッテリーもオイルチェックもOK。

これでちょっとした遠出も大丈夫だ。


急いでアパートに戻り、お弁当作りを開始。

沙羅が食べやすいように小さめのサンドイッチに一口サイズのおかず、果物、と。

足りなかったら適当に買って食べよう。


あれこれやったら汗びっしょりだ。シャワーを浴びて身支度。

今何時?8時10分!


平日の木曜日だけれど都内の渋滞は読めないから早めに出よう。

大き目のビジネストートに詰めた着替えとガーメントケースをひとつ、弁当をいれた紙袋をBMWのトランクに放り込みイグニッションにキーを入れて回した。


《 おはよう沙羅さん

 今から向かいます 》


「はーい、陽司くん待ってます」沙羅は口にしながらLINEを入力して腕時計を見る。


8時20分ね。

浅草からだからそんなに時間はかからないはず。

今日はお天気もいいし、道が混んでいないといいな。



高輪台 午前9時5分

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ゲートがゆっくり上がり、白いBMWが入ってきた。

陽司くんかな?つばの広いベージュの帽子を少しあげると、運転席でごめんなさいと両手を合わせる香月が見えた。


「おはよう沙羅さん、ごめんね!遅刻しちゃった」


「全然。事故じゃなくてよかったわ。

おはようございます」


沙羅は藍色の麻のブラウスに薄いグレーのロングスカート。

赤いペタンコの靴に小型のキャリーバッグ。

手には小さめのバッグというシンプルなスタイルだ。

普段着の沙羅に見惚れる間もなく、荷物をトランクに入れて香月が助手席のドアを開けると沙羅が綺麗な所作で車に乗った。


ご機嫌でハンドルを握る香月の隣でちょっと緊張気味の沙羅。

二人を乗せた車は静かにマンションの敷地から滑り出て行った。


「今日は特別に綺麗だね、沙羅さん」


「えっっ、普段着よ///!もう朝からやめて////」


「本当のことだから仕方ないよ。それに朝から会うのって初めてなんだよね。

俺本当に嬉しいんだ」


「私も・・・・。素敵なプレゼントをありがとう」


沙羅は香月の一泊二日のデートMAPを広げて見せた。


香月は環状線を避けて第一京浜から国道15号のルートを選んだ。


「陽司くんは道をよく知っているのね。ナビも見ないのね」


「こう見えてお巡りさんだから道は詳しいよ。それにこの車は親父のでさ。頑固だからナビをつけないんだ」


お巡りさんという言葉に沙羅はクスクス笑い、香月は買ってきたコンビニのコーヒーを沙羅に渡す。


40分ほどで押上駅近くまで来た。

東京スカイツリーが青空に映える。

近くのパーキングに車を停め二人で歩く。


背の高い美男美女の二人は観光客の中に入っても目立ち、人々が振り返るたびに沙羅は恥ずかしそうに帽子を目深にかぶり直す。


沙羅に展望台行きのチケットを渡しエレベータに並びながら、


「沙羅さん、どうした?帽子が気になる?」


「・・・私、背が高くて。今日はぺたんこ靴を履いてきたけど、、デカい奴がいるって思われているのかと思うと恥ずかしくて」


帽子のつばを左右に引っ張りながら小さな声で言う。


「え~?もう!沙羅さんは馬鹿だなぁ」


「えっ、、バカってそんなぁ・・・。゚∵」


香月は沙羅の肩をギュッと抱き寄せてから耳元へ、


「皆、あなたが綺麗すぎるから見惚れてるだけなのに。そんなことに気づかないあなたはお馬鹿さんで世界一可愛い人だ」


カァァっと首筋まで朱に染まって、でも沙羅は帽子のつばを離せずますます深くかぶる。


香月は笑いながら、


「エレベーターは狭いから預かるよ」


と沙羅の頭から帽子を取り去る。

帽子から零れた黒髪がライトに照らされて、香月は目を細くして見つめた。


綺麗だな。

この人の美しさを世界中に自慢したい。

いや、もったいなすぎる。

やっぱりダメだ───心が狭いな、俺は。


東京スカイツリーの地上350mの展望デッキ、そして450mの展望回廊へ。

ガラス床の上に立って自撮りしたり、空中散歩をしているようなフォトスポットで写真を撮ってもらったり。

沙羅には何もかもはじめての経験ばかりだ。


車に戻ってからも沙羅は興奮気味で、


「楽しかった、あんなに高いところに昇ったのはじめて」


「沙羅さん高いところは怖くないんだね」


「そうね、昔から木登りも上手だったのよ。陽司くんの・・・苦手を見つけちゃったわ」


と悪戯っぽく笑う。


東京スカイツリーのマスコットキーホルダーを手にした沙羅に微笑み、香月はBMWをお台場へ向けた。



次話は「地上の太陽 -お台場デート-」です。

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