生きたい

 無人島に一つだけ持っていきたいものは?

 よくそんな質問を耳にするけど、どんな意図があるんだろう。そもそも「持っていきたい」ということは、事前に用意をして無人島へ向かうということだ。用意ができるなら一つと言わずにいくつでも使えそうな道具を持っていく。移住プログラムでもないなら、それくらいして当然だろう。

 サバイバル術や頭の回転の速さを測りたいなら、「無人島に漂着したときに一つだけ持っていたいものは?」の方がいい。絶対にそうだ、今なら言い切れる。

 僕は今、半袖Tシャツ一枚で大海原に投げ出され、無人島らしき島に漂着した。当然持ち物は何もない。全部地球上のどこかへ流れていってしまった。だから、仮定の質問なんて何の意味もない。現実はそう都合の良いものではないのだ。

 もはや、漂着できただけラッキーかもしれない。一つだけ持っていたいものは、間違いなく命だ。今後誰に訊かれてもそう答えようと決意した。

 いや、もう誰にも訊かれることなんてないかもしれない。たった一つ持っていられたこの命さえ、いつ絶えるか分からない。揺すって落ちてきた木の実も獲れる魚も安全に食べられる保証なんてどこにもないんだ。ここには案内所もなければ一緒に生活をする仲間もいない。

 どうすれば助かるのだろう。受け身にならざるを得ない中、耐える術を必死になって考える。サバイバル術や頭の回転の速さを測るわけでもない、定番の質問が定番たる理由を身をもって理解した。




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今回の使用単語

「はんそで。うなばら。たえる」

愛媛県新居浜市付近だそうです。

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