君はドンブラザーズを観たか?

 君は「現存!古代生物史パッキー」を読んだだろうか。

 2012年に「週刊少年ジャンプ」で連載していたギャグ漫画です。コロコロ系の画風でありながら、古代生物のマニアックな知識と人外から見た人間社会という知的なユーモアが読み応えたっぷりの作品でした。まあ、そんなギャップは読者を選びまくる結果になり、2クール打ち切りとなります。


 パッキーが作中のヒーロー番組である「喫茶戦隊ティーレンジャー」のヒーローショーに行くという回がありました。

 パッキーはティーレンジャーの敵である動物元帥の美学、思想、行動様式に心酔しており、ショーが終わると動物元帥の控室に紛れ込みます。当然、動物元帥の正体はショーで雇われたスーツアクターであり、特撮好きのアルバイターでした。


 なんだかんだあり、動物元帥とパッキーは意気投合します。

 ティーレンジャーの構成は、紅茶レッド、緑茶グリーン、コーヒーブラック、いちごオレピンク、ガムシロ透明です。動物元帥はティーレンジャーへの不満をぶち撒けますが、特に許せないのがガムシロ透明でした。

「特撮はCGアニメじゃねーぞっつの!」

 ガムシロ透明は番組内ではCGでその透明色を再現しており、ヒーローショーでは白いスーツが用意されています。


 この回は非常に楽しいものでしたが、実際問題、戦隊ヒーローのレギュラー戦士にCGが用いられている例はありませんでした。巨大戦などでロボットやメカがCGで描かれることは多いのですが。

 そこで、現行のスーパー戦隊である「暴太郎戦隊あばたろうせんたいドンブラザーズ」です。レギュラー戦士のうち、イヌブラザー(ブラック)は二頭身の小柄な体格。キジブラザー(ピンク)は足だけで二メートル近くある長身です。ともにスーツアクターではなくCGによってキャラクターが描かれることになりました。ヒーローショーではイヌは頭が大きくて屈むことでCGに近づけ、キジはすべてを諦めて普通の等身大の戦士です。

「パッキー」の予言がようやく実現されたのでした。


 とはいえ、「ドンブラザーズ」は、見た目に特徴があるんだねえ、などという感想で済むような悠長な作品ではありません。


 あらすじは……と始めるべきなのでしょうが、正直よくわかっていません。というのも、物語の根幹部分が一切語られないままに、物語が進行しているからです。

 ギャグに焦点を当てているからとか、戦隊シリーズの枠を撥ねのけているだとか、そんな言葉では到底表すことのできない、アクロバティックなストーリーテリングがなされているドラマシリーズなんです。この奇跡を目の当たりにせず、今年の物語界隈を語ることはできないでしょう。

 まあ、若干遅ればせながらはありますが、今更と言うべきか、今のうちにと言うべきか、語っておきたいお話でした。


 一応、説明すると「暴太郎」とはアバターと桃太郎の合成ネーミングであり、桃太郎の登場キャラクターが主人公たちの元ネタです。そして、怪人の出現した場所には変身した姿で駆け付け、同じ戦隊でありながら、互いの正体を知らないまま、現地で解散します。それはさながら、オンラインゲームのアバター同士であるかのような様相です。


 物語は常に複数のラインが走っており、時に勘違いし、時にすれ違い、巨大な火薬庫を残したまま進行しています。ギャグ成分多めのハチャメチャな物語ですが、人間が怖いに怪異怖いを上乗せするホラー展開も見所です。

 脚本は「鳥人戦隊ジェットマン」でスーパー戦隊シリーズを立て直し、平成仮面ライダーシリーズ(前期)の空気感を構築した井上敏樹。構成力は当然として、ギャグセンスも健在で、毎回毎回圧倒されること請け合いです。


 今年、「桃太郎」を題材にお話を書く方は井上敏樹と殴り合うつもりでやってください。

 私が桃太郎をモデルにしたキャラクターを出したのは去年なのでノーカンです。まあ、その時は山口貴由にハイパー全力土下座する勢いでやっていましたけれども。

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