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──と。


ウィィィン…… 『エレベーターの稼働する音』。

嫌な予感がする。

──チーン。


「ぉぉん? 大所帯だなぁ?」


まるで、狙ったようなタイミングで現れた、話題の人物。

直後、ワチャワチャワチャ! と虫達が知朱に飛び掛かった。

カアラ様の前での蛮行。

本来であるからば許されぬ凶行ではあるが……虫どもはまだ、妖に成ったばかりな自制も知らぬ本能の塊。

毘沙様の前でもあり、知朱も「おやぁ? 君達変なとこで会うねぇ」と知朱も受け入れているので、今回ばかりは見逃して下さるのだろう。


「薄縁。怖い顔をしてますわよ。相変わらず嫉妬心を隠せない子」

「……精進します」

「ぁん? 小僧、貴様どうやってここに来たんじゃ?」


素朴な疑問を漏らす毘沙様。


「よっこいしょ」と、当然のようにカアラ様の隣(上座)に座り、茶菓子のカリントウをポリポリ食べながら知朱は、

「ん? 毘沙ちゃんも居たんだ。で、どうやってここに来たか、だって? (カアラ様の湯呑みのお茶を飲んだ後)ぷはぁ。知らないんだ」


クィッ、知朱は今し方自分が出て来た後ろの扉に親指を向け、


「この【エレベーター】、僕のアパートと繋がってるんだよ」


そう。

あのボロアパートと、ここ、カアラ様の自室は繋がっている。


「……むぅ? つまりは、態々遠回りせんでも、小僧の家に行けばすぐここに来られたというワケか。しっかし、現世と常世を飯炊き感覚で繋げるとは……カアラ、少し過保護が過ぎないか?」

「ホホホッ。孫はいくつになっても目が離せぬ可愛いモノですので」


アパートへの引っ越しが決まって、すぐ、桃源楼の従業員を連れて着工を開始したカアラ様。

凡そ半日で、この世とあの世を繋ぐエレベーターを設置したのだった。

当然、あのアパートはカアラ様が買収済み。


「ち、知朱様は、どうしてここに?」

「あん? ご飯食べにだよ」

「冷蔵庫漁れって言ったでしょ」

「レンチンするの面倒いし、テレビ見てたら急に茹でたカニ食べたくなって来てねー。おばぁ、調理場に生のヤツ置いてあるよねー?」

「ふふ、スタッフに連絡しておきますわ」

「……アンタ、また我儘言って困らせて……ここにあるのは全部客用の超高級品だって解ってるでしょ」

「僕に食べられるのが食材にとっても一番だよ」


勝手知ったるや。

第二の実家兼遊び場である桃源楼にて、コイツの我欲を止められる者は誰一人として居ない。

寧ろ、昔からの古参従業員には未だに甘やかされるので、どんどん調子に乗る始末。

因みに、この宿が神奈備にあったのも昔からだが、本人は『地下深くにある隠れ家的高級宿』としか思っておらず。

幼少期は、近くにある三途の河で川遊びしたり、賽の河原でバーベキューに付き合わされたりした。

いや、割と最近もやった気がする。


「(スンスン)んー……しっかし、やっぱここの匂い、あの肉の塊とおんなじだなー」

「肉……? ハッ! 思い出した! 小僧! 『不浄の除去』はどうなったのじゃ!?」

「あー、それに関してだけどぉ」


知朱は説明する。

あの学園の能力者達や、肉塊との邂逅を。


「……ふむ。一般の子供が特殊な力を得ていた、と。穏やかでないな」

「楽しかったよー。超能力ってホントにいるんだねー」

「何を嬉し気に語っておるんじゃ、全く。一般人にそのような力を拡散する肉塊がホントにあるんなら、ゾッとしないわい」


本来、人間は妖力を使えない。(人と妖の子である半妖は除くが)

なので、『多量の妖力を発していた肉塊』があの学校の敷地内にあったとしても、生徒らが使っていた能力は妖術とは別物なのだが……

しかし、妖力が人間に害を及ばさないと言う事はなく。

今回、あの肉塊がしたのは、人間の『潜在能力を引き出す妖気を送っていた』、だと思う。

本人が元々持っていた強い思い──最も顕著なのは『コンプレックス(劣等感)』、それを、まるで解消する為に表に出て来た超能力。

意外にも、知朱の推理(肉塊から特殊な電波)はカスっていたのかもしれない。

どちらにしろ──これは、高位の妖術だ。

限定的な範囲とはいえ、一般人には過ぎた力を与えられるなんて。

犯人は、余程の『大妖怪』であろう。


「ふん、まぁよいわ。で、その肉塊とやらは当然、『駆除』したんじゃろう?」

「逃げたよ」

「逃げたぁ!?」

「ピョン! ってね! ワハハ!」

「なにをわろとるんぢゃ!」


ペチペチと知朱の尻を叩く毘沙様。


「言うたじゃろう! 町への悪意を払えと! そんな肉塊が町の別所に行ったとなれば! その学園と同じく異能を手に入れた町民が現れ! 町は大混乱じゃ!」

「そうだぞホコウちゃん!」

「え!? ほ、ホコウですか! すいません!」

「まぁまぁ、ホコウちゃんも謝ってるし、そう興奮しなさんな。そこはこの僕がっ、事件が起きる前も起きた後も面倒みてやるって散歩よっ(ビシッ)」

「大口を叩いて格好をつけおってからに……被害者が出たら全ては保護者であるカアラ! お前が責任を取れよ!」

「ふふっ、心得ました」


割と大ごとの筈だが、皆、なぁなぁで済ませている。

巻き込まれる町民が哀れで仕方ない。

まぁ……私からしても、町の者に思い入れなど無いから他人事なのだが。

──妖という生き物は、私利私欲で、自由奔放で、傍迷惑で、身勝手で、嫉妬深い存在で。

成る程、古来より恐れられ忌み嫌われるのも当然だ。

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