第32話 王妃様は寛大すぎです
王宮に戻ると、王妃様の姿を見た家臣たちが目を丸くして固まっている。
「皆の者、メーアが生きていたのだ。こんなに嬉しい事はない、今日はメーアが戻って来たお祝いの宴を開こう。悪いが、急遽貴族たちを集めてくれるかい?もちろん、予定が空いている者だけで構わん」
いくら嬉しいからって、さすがに今日と言うのは急すぎないかしら?そう思っていると
「陛下、いくら何でも今日だなんて急すぎますわ」
王妃様も同じ事を思ったのか、そう叫んだ。
「いいや、こういうのは早い方がいい。それから、今日中に正式にメーアを王妃として迎え入れる手続きも至急行おう。今すぐ書類を準備してくれ」
嬉しそうに家臣たちに指示を出す陛下。そんな陛下を見ていたら、つい私も笑顔が込み上げて来た。
結局その日は、急だったにも関わらず沢山の貴族が集まり、王妃様の帰りを皆で喜んだ。そして王妃様の実家でもある伯爵家からは、ご両親もいらっしゃり、娘の生存を泣いて喜んでいた。王妃様も嬉しそうだ。そんな姿を見たら、諦めずに説得して良かったと心から思った。
翌日
王妃様とノア様と一緒に、ある場所へと向かった。そう、王妃様とノア様を殺害しようとした張本人、ばあやと呼ばれていた元メイドの元だ。
私たちの姿を見た元メイドは、目玉が飛び出るのではないかと思うくらい驚き、柵の所までやって来た。
「お嬢様、これは夢なのかしら…もしかして、お嬢様が私を迎えに来て下さったの?」
「いいえ、夢でも何でもないわ。セアラ、あなたがモリージョ公爵や元王妃に実家を人質に取られていたなんて、全然知らなかったわ。あなたの苦しみに気づいてあげられず、ごめんなさい」
えっ?この人、何誤っているの?自分と息子を殺そうとした相手なのよ。それなのに、どうして…
「お止めください、お嬢様。私はあなた様とあなた様の大切な息子、ノア殿下を亡き者にしようとしたのですよ。たとえどんな理由があれ、私は罪を犯したのです。私が全て悪いのです。でも、最後にお嬢様の元気な姿を見られるなんて、こんなにも嬉しい事はございません。いい冥途の土産になりました」
そう言って寂しそうに笑った元メイド。
「いいえ、あなたは死なせません。あなたへの罰は、これからも私の側で、私とノアを支える事です。もちろん、辞める事は許しません。それがあなたに与えられた罰です。いいわね、これからも私のノアを支えてちょうだい」
そう言うと、牢の鍵を開けた王妃様。
「お嬢様…あなた様は本当に…」
泣き崩れる元メイドを、優しく抱きしめる王妃様。て、ちょっと王妃様、寛大過ぎない?この人は命令されていたとはいえ、自分と息子を殺そうとしたのよ。ふとノア様の方を見ると、優しい眼差しで2人を見つめていた。
2人が納得しているのなら、まあいいか…
その後泣きじゃくる元メイドを連れ、地下牢を後にした。なんだか疲れたわ。まさか元メイドを許してしまうなんて。王宮にある私の為に準備された部屋に戻ると、そのままベッドにダイブした。
まだノア様とは正式に婚約を結んでいないのだが、婚約を結ぶのも時間の問題という事で、私の為の部屋が準備されているのだ。ちなみに元王妃様とモリージョ公爵の断罪後は、ノア様によって毎日王宮に連れてこられている。
「ステファニーを野放しにしておくと心配だからね」
そう言って朝早くに我が家にやって来て、夕食後我が家に私をおくって行くノア様。正直王妃様に会いに行く時間がなくて、つい早朝や夜遅くに訪問する事になってしまった。その事を王妃様に愚痴ると
「ごめんなさい、きっと陛下に似たのね。陛下も独占欲が強くて嫉妬深い人だから…」
そう言って謝ってくれた。でも王妃様が戻ってきてくれたのだから、あの時の苦労は報われた訳ね。
そんな事を考えていると、王妃様と元メイドが部屋を訪ねて来た。
「ステファニーちゃん、改めて紹介するわね。メイドのセアラよ」
「セアラと申します。今後ノア殿下の婚約者となられるステファニー様の教育係を務めさせて頂く事になりました。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げるセアラ。って、この人私の教育まで担当するの?完全に動揺する私をよそに
「ステファニー様、お嬢様…ではなく王妃様がご存命だという事を突き止め、根気強く説得していただき、ありがとうございました。かつての過ちを悔い、この命が尽きるまで精一杯王族の方々の為に尽くしたいと考えておりますので」
そう言ってさらに深々と頭を下げたセアラ。そう言えばこの人、王妃様を殺めた(実際は未遂だったが)後、何度も涙を流し後悔の念を口にしていたわね。それにノア様に毒を盛った時も、一番に駆け付け医師を呼んだのもこの人だった。
そして、「何度ももうこんな仕事はしたくない」、そう元王妃様やモリージョ公爵に訴えていた。彼女も彼女なりに、必死だったのだろう。そう思ったら、なんだかセアラとも仲良くなれる様な気がするわ。そんな思いから
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぺこりとセアラに頭を下げた。でも…
「ステファニー様、メイドに頭を下げる必要はございません。あなたは王妃になられるお方なのですよ。これからは王妃教育をビシバシ行っていきますので、そのつもりで。それでは、早速今から開始しましょう。そう言えば王妃様。あなた様もしばらく平民として生活していたせいで、随分と王妃としての立ち振る舞いを忘れてしまっている様ですわね。王妃様も一緒に再度勉強をやり直しましょう」
「え…私は大丈夫…」
「何が大丈夫なのですか!いいですか、私は王妃様にこの命を助けられたのです。誠心誠意、魂を込めてお2人の教育を行うつもりです。では、早速行いましょう」
ちょっと、ちょっと!なんだか面倒な事になって来たわ。そもそも、そんな事に魂なんて込めなくてもいいのに!そんな私の心の叫びも虚しく、その後セアラによって、みっちり2時間、マナーレッスンが開催されたのであった。
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