第16話 これにて一件落着です

「それじゃあ、今日からしばらくお世話になるからよろしく。おい、そこのメイド、今すぐ俺の荷物を運んでおけ。いつもの部屋にだ。いいな、丁重に扱えよ」


相変わらず感じの悪い男ね。そう、こいつはとにかく威張り散らすのだ。特に使用人は奴隷とでも思っているかのような横柄な態度をとる。そのくせ、自分より立場や地位が上の人にはへコヘコするのだ。


でも、どうしてノア様にはあんな態度をとったのかしら?不思議に思っていると


「そうそう、俺は次期国王になる予定の第二王子と仲良しなんだ。ステファニー、俺と仲良くしておいた方がいいと思うけれどな。賢いステファニーなら分かるだろう?第二王子のグラッジ殿下が国王になった暁には、侯爵と言う地位を与えてくれると約束してくれたんだ!そんないつ殺されるか分からない男といるより、俺と一緒にいた方がいいぞ」


そう言ってノア様を見ながらニヤリと笑ったダン。なるほど、それでノア様に強気だったのね…本当に飽きれた男だ。


「私はね、あんたのその腐った考えが気に入らないのよ!今だってメイドたちを顎で使って。そもそも、彼女たちは家のメイドなのよ。勝手にこき使わないで!それからノア様の悪口を言わないで。ノア様の方が、あんたなんかよりも100億倍いい男なんだから!」


大きな声を出したら、少しスッキリした。でも…


「ステファニーはそんなの僕の事が好きだったんだね。僕もステファニーが大好きだよ。ダン、聞いたかい?僕達は相思相愛なんだ。これ以上僕達のラブラブっぷりなんて見たくないだろう?王都に戻った方がいい」


そう言うと、なんとダンや使用人たちがいる場所で、今度は唇に口付けをしたのだ。ちょっと、さすがにこれは駄目よ!恥ずかしすぎるわ。


「ちょっとノア様。口付けをするのは止めて下さい!」


オクト顔負けの真っ赤な顔で抗議をする。すると


「毎日しているのだから別にいいだろう?口付けくらい、大したことはないよ」


さらに爆弾を落とすノア様。駄目だ…なんだか頭が痛くなってきたわ…ぐったりする私に


「ステファニー、どうしたんだい?体調でも悪いのかい?大変だ、今すぐ部屋に連れて行ってあげるからね」


そう言うと、今度は私を抱きかかえた。


「それじゃあダン、そろそろ帰り支度をした方がいいんじゃないのかい?」


ダンに向かってニヤリと笑って去っていくノア様。ノア様の腕の隙間からダンをちらりと見ると、顔を真っ赤にしてノア様を睨んでいた。あの後使用人に当たり散らさなければいいが…心配ね…


「ステファニー、いつまで他の男をみているんだい?」


私をギューッと抱き寄せ、耳元で呟くノア様。


「別に見ていませんわ。それに体調は悪くありません。どうか降ろしてください」


暴れる私をさらに強く抱きしめるノア様。


「ステファニー、暴れると危ないよ。それにしても、ステファニーが僕の事をそんな風に思っていてくれていたなんて嬉しいな」


「あ…あれは言葉の綾で…」


「それじゃあ、あの言葉は嘘だったのかい?酷いな、男心を弄ぶなんて…」


ちょっと、そんなにガッカリした顔をするのよ。もう、また私をからかって!でも…


「ごめんなさい、そんなつもりで言ったのではないわ」


「それじゃあ、どんなつもりで言ったんだい?」


なぜか真剣な表情で詰め寄って来るノア様。その時だった。


「殿下、俺と剣で勝負をして下さい!」


やって来たのはダンだ。剣で勝負ですって!そう言えば、ダンは剣の腕だけは凄かった。それにしても第一王子のノア様に勝負を持ちかけるなんて、さすがにマズいでしょう。


「ダン、ノア様は第一王子なのよ。王子様と勝負だなんて…」


「ステファニー、僕は大丈夫だよ。ダン、もし僕が勝ったら金輪際ステファニーには近づかないでもらえるかい?」


「ええ、いいですよ。その代わり俺が勝ったら、ステファニーは王都に連れて帰ります。そして、二度とステファニーに近付かないで下さい!」


「いいだろう」


「ちょっと、ノア様!」


「僕は大丈夫だよ。さあ、早速始めよう」


私を降ろすと、スタスタと中庭に向かって歩き出したノア様。ダンもその後に続く。ちょっと、2人共勝手な事を言って。特にダン、どうして私が王都に戻らないといけないのよ!やっぱり納得出来なくて、急いで中庭に向かう。


すると既に剣を構えていた2人。あまりの展開の速さに固まっているうちに、戦いが始まってしまった。


カキーーン


激しくぶつかり合う剣の音。どうやら本物の剣を使っている様だ。さすがダン、物凄い剣裁き。でも、ノア様も負けていない。むしろノア様の方が押しているくらいだ。でも次の瞬間、ノア様の頬をダンの剣がかすり、血が飛び散った。


「ノア様!」


つい名前を叫んでしまう。


「ステファニー、大丈夫だよ。すぐに決着を付けるから、待っていてね」


そう言うと、一気にダンに襲い掛かるノア様。そして次の瞬間、ダンの首元に剣を突き付けた。この勝負、ノア様の勝ちだ。


「エリー、すぐに医者を呼んで。ノア様!」


そのままノア様に抱き着いた。やっぱり頬からかなり血が出ている。早く手当てをしないと。そんな私を一旦引き離した。


「ダン、やっぱり君は強いね。でも約束だ。ステファニーを諦めて、今すぐ王都に帰ってもらうからね」


「うるさい!分かっている」


剣で負けたのが余程悔しかったのか、キッとノア様を睨むと去って行ったダン。きっとこのまま帰って行くのだろう。それよりノア様の怪我だ。


「ノア様、今医者が参ります。どうかじっとしていてください。せっかくの奇麗な顔に、傷痕でも残ったら大変ですわ」


頬の血はポタポタと流れ落ちている。とにかく早く血を止めないと!でも次の瞬間、ノア様に抱きしめられた。そして、ゆっくり離れたノア様が、私をまっすぐ見つめる。


「ステファニー、僕は君が好きだ。この気持ちは誰にも負けない。今回ダンが来た事で、早くしないと君を誰かに取られてしまうかもしれないという事に気が付いたんだ。どうか僕と結婚してくれませんか?もちろん、君に王妃になれなんて事は言わない。僕は廃嫡を望んでいる。海の見える小さな領地を貰い、そこで2人で暮らそう」


これは、まさかのプロポーズ…ノア様と海の見える領地で暮らす…


「私も…ノア様が好きです。海の見える小さな領地、素敵だと思います。きっとキキやリンリン、オクトたちも付いて来てくれますわ!」


ノア様がまさかそこまで考えていたなんて正直驚いた。でも、嬉しい!私もずっとずっとノア様と一緒にいたい、そう思っていたのだから。


「ありがとう、ステファニー!これからもずっと一緒だ。こんなに嬉しい事はない。愛しているよ、ステファニー!」


「私もです、ノア様」


どちらともなく自然に顔が近付き、唇を重ねる2人。完全に感情が高まっている2人には、生温かい視線を送っている使用人や護衛騎士の存在など、微塵も感じていない事だろう。

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