第39話 遠征

薬師室を出て、ユキ様がいると思われる謁見室にフォゲルさんと向かう。

この時間はいつも陛下と宰相とお茶をしながら話をしているはずだ。


魔獣の大発生、母様が犠牲になったのも4年前の魔獣の大発生だった。

少しでも何かしたい。役に立つのであれば私も行きたい。

それに、私が行かなければノエルさんが派遣できないはずだから。

前回の時のように私が部屋に閉じこもっていればいいというわけじゃない。

魔力の共生の儀式をしてしまっている以上、一日以上離れることは出来ない。

それなら一緒に行って、ノエルさんは討伐隊に、

私は後方支援で処方していれば何とかなるんじゃないだろうか。


思ったとおり、ユキ様は謁見室にいた。

ちょうど討伐隊の派遣の話をしていたようで、すぐに中に通された。

さすがにフォゲルさんは中に入る気はないのか、外で待つようだ。


「ルーラ、どうした?急ぎの用事かい?」


地図を広げて陛下と打合せだったようで、いつも以上に厳しい顔をしている。

それだけ辺境の状況が悪いのかもしれない。


「ユキ様、魔獣の討伐隊、王宮薬師を派遣するの私じゃダメですか?」


「は?ルーラが?」


「私が行けば、ノエルさんも派遣できます!」


その言葉にユキ様と陛下が反応して、顔を見合わせた。

おそらくノエルさんのことはあきらめていたのだろう。

だけど新しい魔剣になってさらに強くなったノエルさんを派遣できるなら、

それが一番いいはずだ。


「ユキ姉様、どうだろうか?ルーラを派遣するのは難しいか?」


「…できれば外には出したくない。

 だが、これ以上魔獣が増えるようだと、本当に大発生になる可能性がある。

 今後のことは後で考えるとして今回限りということであれば、

 ルーラの安全確保を絶対条件にして許可をしてもいい。」


「では、ノエルの他にも護衛の騎士をつけよう。

 ノエルが魔獣の討伐に出ている間は不安だからな。

 近衛騎士で信用できるものと女性騎士をつけよう。それでいいか?ユキ姉様。」


「よし。では、王宮薬師からノエルと他2名を派遣する。

 ルーラなら2人分の処方量になるはずだ。

 ルーラ、塔に帰ってノエルに伝えて、すぐに旅に出る準備をして。」


「はい!」


許可が出たことで、外で待っていたフォゲルさんにそれを伝え、

準備をするために塔に戻った。

時間より早く戻ったことで塔にいたヘレンさんには驚かれたが、

討伐隊として派遣されることを伝えるとすぐに準備に取り掛かってくれる。


ノエルさんも騎士団に魔獣の発生のことが伝えられ、

すぐさま訓練は中止になり、塔に戻って来た。

今まで見た中で一番暗い顔をしている。

おそらく魔獣の発生なのに討伐に行けないと思って、つらい気持ちでいるんだろう。



「ルーラ…。いや、なんでもない。」


言いかけてやめたのは、それでも私を選んでくれたということなんだろう。

そんな辛そうな顔して…。

思わずノエルさんの眉間のしわを指でなぞって、それから髪を撫でた。


「ノエルさん、行こう。一緒に討伐隊で辺境の地に行こう。」


「え?」


何を言われたのかわからないって顔で、聞き返すノエルさんに、

目を合わせてもう一度はっきりという。


「王宮薬師として派遣してもらうから、ノエルさんも一緒に行こう?

 魔獣の討伐、行きたいでしょう?」


「王宮薬師の派遣?ルーラが?次期王宮薬師長なのに行けるのか?」


「とりあえず今回限りかもしれない。大発生の可能性があるからって。

 近衛騎士と女性騎士をつけることで認めてくれたみたい。

 それに、私が行かないとノエルさんも行けないでしょう?」


「良いのか?討伐隊は野宿だし、大変だぞ?」


「え?よく母様と薬草取りに森に行ってたし、野宿だってしたことあるよ?

 薬師なら当然でしょ?」


「ふふふ。そうだった。ルーラはそうだったな。

 …ありがとう。俺と一緒に討伐に行ってくれるか?」


「うん!」


「でも、俺が討伐に出ている時に他の騎士をつけるのか…。」


「お二人の旅の準備は出来ましたよ。ノエルさんが心配している他の騎士ですが、

 おそらくルーラにつく近衛騎士は私の婚約者だと思います。

 近衛騎士長の父はさすがにいけないでしょうから。

 女性騎士のほうは私の従姉だと思います。

 なので、ノエル様安心してくださいね。」


「あ、ああ。ヘレンの婚約者なら安心か。なら大丈夫だな。よろしく頼む。」


「?」


ノエルさんの心配はよくわからないけど、

そういえばヘレンさんの恋人は近衛騎士だって言ってた。

女性騎士はヘレンさんの従姉なんだ…

女性でも騎士になれるなら、ヘレンさんはどうして騎士にならなかったのかな。

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