第13話 苦悩するノエル

腕の中ですやすや眠るルーラを見つめる。

ルーラが成長した直後は無理だったけど、少しずつ慣れて、

今ではこうして抱きしめた腕の中で眠らせている。


最初の日は腕に抱き着かれるのが限界だった。

一晩眠れずにすごし、朝起きてからルーラに心配されてしまった。

こんな緊張する夜が続くのかと思っていた。

だけど、話してみれば中身は相変わらずルーラで。

そう思ってしまえば一緒にいることに問題は無かった。


ようやく、そう思えるようになったというのに。

魔力の共生の儀式…名前は知らなかったけど、知っていた。

本来は結婚する時にする儀式だ。

だけど、魔力の器を持たない者が増えてきたことと、

相手が死んだ後も再婚できないから残されたものが困る時もある。

特に女性側が生き残った場合、一人で生活していくのは大変なことだ。

そのため今は書類の結婚に変わることになった。

ごくまれに希望する場合は、

相当の覚悟を持ってする儀式だという話だったが。


よく考えてみれば、ユキ様はちゃんと説明している。

俺たちはなんでもすると言った。

それに対して、ユキ様は他の人間とは結婚できなくなると言った。

確かにユキ様の説明は嘘じゃない。

ただ、あえて説明を省いたんだろうな…あの人。

それを恨む気持ちは無い。びっくりするくらい無かった。

驚き過ぎて、魂が飛ぶかと思ったが…。



腕の中のルーラ。目を閉じていると少しだけ幼く見える。

頬にかかった髪を直して、頭を撫でると表情が柔らかくなった。

俺が撫でているのがわかっているんだろうか。


このまま閉じ込めておきたいと何度思っただろう。

今のままでは身分の差もある。

ルーラが王宮薬師になれば、それは解決される問題ではあるが、

薬師として生きたいルーラはそんなことは求めていないだろう。

俺自身も、この傷や、壊れた魔力の器、家の問題。

結婚すれば、それらを押し付けてしまうことになる。

そんなことは望んでいなかった。


だけど、結婚した。ルーラと俺が。

書類は出していない、けれど、そんなことはどうでもいい。

書類の結婚なんかよりも、ずっと深いつながりで一緒にいられる。

うれしくて、でも、それをルーラに見せてはいけない。

俺のこの気持ちを伝えることはしてはいけない。

ただ、これからもずっと、こうして抱きしめて眠れる。

それが幸せで、泣きそうになる。


これからもルーラを守って行こう。

昔のように魔剣も使えるようになった。

この力はルーラのものだ。だから、ルーラを守るために使えばいい。


いい夢を見ているのかルーラがふふっと笑った。

その額にくちづけて、俺も目を閉じた。

夢も一緒に見られればいいのに。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る