第11話 他国の貴族

それは突然の訪問だった。


ノエルさんが私の変化に慣れ始めてきたころ、他国の貴族が私を訪ねてきた。

他国の貴族を塔に連れてくることはできないと、

私が王城に向かって会うことになった。

朝早くからその準備でミラさんたちに磨き上げられ、ドレスを着せられる。

いったいどういうことなんだろうと心配になったが、

会う時にはユキ様とノエルさんが付き添ってくれると聞いて安心した。


用意ができて3人で応接室に入ると、黒髪の大柄な男性がいた。

黒髪黒目…母様以外で初めて会った。



「お前がミランダの娘か。」


「失礼だが、名乗ってもらってもいいだろうか。

 私は王宮薬師長のユキと申す。爵位は侯爵位と同等だ。

 ルーラの師として、立ち会わせてもらう。」


「了解した。

 私はジェームス・ジェンギニー。

 ハンナニ国の侯爵だ。

 ミランダというのは私の妹だ。

 つまり、この娘は俺の姪ということになる。」


「ルーラがその妹さんの娘という話は理解したが、

 それが本当だという証拠はどこにもない。

 それと、もしそうなら、どうするつもりで面会を申し込んできたのか?」


「証拠はある。

 黒髪黒目は我がジェンギニー家でも力を持つ者のしるしだ。

 この国では黒髪黒目は産まれないだろう?

 力を持つものを放ってはおけない。国に連れて帰る。」


「…この国で生まれないからと言っても、他の国から来た可能性もある。

 それに、ルーラはどう思う?ハンナニ国に行きたいか?」


突然すぎる話についていけなくなりそうだったが、

ユキ様に聞かれてこれだけは言わなければとはっきりと答える。


「いいえ。私はこの国で生まれた、この国の民です。

 他の国に行く気はありません。」


母様の兄、伯父だと言われても全く知らない人だし、

会った瞬間からずっとにらまれている気がする。

そんな人について他国に行く気など、なるわけがない。


「ということだよ。ジェンギニー侯爵、あきらめて帰ってくれるかい?」


「この娘の意思など必要ない。

 わが国では女子供は家の持ち物だ。

 これは私のものになる。2日後に連れて帰る。

 それまでに準備しておくんだな。」


怒りをあらわにした侯爵は、そう言い捨てると出て行ってしまった。

あんな人が母様の兄だっていうの?女子供は家の持ち物?

だから母様は国と家を捨てて、この国に逃げてきた?


「なんだ!あの貴族は!大丈夫かルーラ?」


心配そうにノエルさんが顔をのぞいてくる。

思わず抱き着いてしまったが、嫌がらずに抱きしめてくれた。


「どうしよう。2日後に連れて帰るって。嫌だ。どうしたらいい?」


震えが止まらない。他国の貴族相手に、どこまで抵抗できるんだろう。

陛下の時も怖かったけど、それ以上に怖い。

私を私だと思っていない、ただの物だとでも言いたげな視線。

そんな人に連れていかれたら、私はどうなるの?


「ユキ様、何かいい手はありませんか?

 俺にできることなら、何でもします!」


「…本当か?

 ノエルがなんでもできるというなら。

 ルーラもなんでもするというのなら、一つだけ手はある。

 だけど、お互いに誰かと結婚することはできなくなるよ?」


「そんなことは平気です。俺にできることがあれば、なんでもします。」


「いいの!?ノエルさん、結婚できなくなっちゃうんだよ?」


助けては欲しいけど、ノエルさんを犠牲にしてまで助かりたいわけじゃない。

そう思って言ったのに、ノエルさんは私の両頬を手で包み込むように押さえ、

視線を合わせたまましっかりと頷いた。


「いいんだ。もともと結婚する気は無かったから。

 ルーラこそ、いいのか?結婚できなくなるぞ?」


「私も薬師として生きるつもりだから、結婚する気はないの。

 ノエルさんが、それでいいなら…お願い助けて。」


「うん、わかった。

 ユキ様、お願いします。」


二人でユキ様に向かってお願いする。

なんだか満足げな顔のユキ様が気になったけど、今はそれどころじゃない。

あの貴族の所には絶対に行きたくない。


「よし、じゃあ二人ともついておいで。

 王家の神殿に行くよ。」


王家の神殿?それって、王城内にあるって噂の神殿?

平民は行けないはずだけど…私、行っていいのかな。




王城の敷地内の奥に神殿はあった。

隠し入り口というものらしく、ユキ様が入るまで入り口がわからなかった。

中に入ると、ガラスでできた廊下が続いている。

これ、ガラスじゃないかも?透明な何か。

足音が全くしないので、歩いていて不思議な感じがする。


廊下の突き当り、ユキ様が何かつぶやくと、大きな開き扉が現れた。

すーっと扉が開いた先に、まばゆい光が降り注ぐ、天井が見えないほど遠い、

祭壇以外は何もない空間が広がっていた。


「御用ですか?」


声をかけられて、初めて人がいたのに気づいた。

真っ白い服、神殿の人だろうか。顔が見えないように頭から布で隠している。

男性なのか女性なのか、よく見てもわからなかった。


「魔力の共生の儀式を頼む。」


「そのお二人ですか?覚悟はよろしいのでしょうか。」


「確認してある。」


「承知いたしました。では、こちらへどうぞ。」


呼ばれるままについていくと、祭壇の下に宣誓台のようなものがあった。

ここに立てばいいのだろうか?

ノエルさんと一緒に立つと、祭壇から円柱の石がゆっくりと突き出てきた。


「その石の上に、二人の手を重ねて置いてください。」


言われたまま手を置くと、私の手の上にノエルさんの手が重なる。

大きい手だから、私の手は全く見えなくなってしまった。


「聞かれたことに答えてください。」


「「はい。」」


「相手を守りたい、助けたいと思いますか?」


ん?こういう質問?それは、そう。

ノエルさんに何かあれば助けたいって思うよね。


「はい。」「もちろん。」


あ、ノエルさんには助けてもらってばかりだけど、

もちろんって答えてくれるんだ。なんだか嬉しくなった。



「もう離れることができなくても、かまいませんか?」


「はい。」


私だけ即答してしまった。恥ずかしい…。


「はい。」


少し遅れてノエルさんが答える。大丈夫かな。無理してないかな。


「今後、どちらかが亡くなったとしても、他の者と結婚できなくなります。

 それでもいいですか?」


「「はい。」」


これは答えが重なった。

さっきユキ様から聞いていたし、問題ない。


「神殿よ…お聞きになられただろうか。

 この者たちの覚悟を受けて、魔力の共生の道を!」


石が急に光ったと思ったら、魔力が吸われて行く。

しばらく吸われたと思ったら、何か身体の中に戻ってくる。

温かな何か。光のようなぬるま湯のような…もしかして?

これが魔力だとしたら、ノエルさんの魔力なのだろうか?



光が収まったと思ったら、目の前に一枚の紙が浮いている。

何か文字が書いてあるようだけど、光の反射で上手く読めない。

これは?と思っていると、神殿の人がそれを取って、ユキ様に渡した。

ユキ様はその紙を見て確認すると、にやっと笑ってこちらを向いた。


「うん、これで儀式は成功したね。

 ノエル、ルーラ、お疲れさん。説明は部屋に戻ってからにしよう。」


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