ハガキ

@MeiBen

序文

20XX年、とある装置が開発された。日焼けサロンに行ったことはあるだろうか?オレはない。だが、TVでみたことがあった。人が中に入り寝転がって寝ている間に日焼けできる装置がある。三芝製作所が開発した装置はこれとよく似ている。人が中に入り、ふたを閉める。麻酔作用のあるガスが流れ、中の人は眠りにつく。その後に大量の中性子線が照射され、痛みを感じないまま人は死に至る。特に目新しい技術は何もないのだが、我が国でこの装置が大活躍している。なぜか?新たに制定された法律のせいだ。


安楽死法


説明は不要と思うが、安楽死が許可されるようになった。しかし、いつでもどこでも安楽死ができるというわけではない。20歳から10年ごとに、ハガキが届く。所定の期間内に、そのハガキを所定の機関に持って行くと安楽死できる。先ほどの装置はこの機関で使用される。ハガキが届くのは20歳から10年ごと。そして、安楽死を選ぶ場合、家族にメリットがある。国から遺族に年金が支払われるのだ。20歳で死ねば、その後故人が60歳になるまでの40年間、年金が支払われる。そして、この法律と対をなす法律がある。


自殺禁止法


自殺が禁止されるのは当然ではないかと思うかもしれないが、内容はすさまじい。自殺者、自殺未遂者に加えて、本人の家族も罰せられる。全財産没収の上、教育、公共サービスなどが一切受けられなくなる。国民でなくなるのだ。自分が死ねば、家族は間違いなく路頭に迷うのである。これは強力な自殺防止機構である。

あなたの目の前にハガキがある。このハガキが次に届くのは10年後だ。その間に自殺すれば、家族に迷惑がかかる。あなたはどうするだろうか?はたして10年の間に死にたくなるようなことがないと言えるだろうか?会社でリストラにあう、借金を背負う、不治の病にかかるなど、様々なリスクが襲い来る可能性がある。この10年間、あなたは死にたくなることがないと考えるだろうか?死にたくなったとして、あなたは家族を残して死ねるだろうか?つまり、この法律の精神はこうだ。

『このハガキを捨てるならば、あなたは10年間、どんなことがあっても生きようとしなければならない』

さて、これまでの話はあなたも知っている話だった。これからの話はあなたの知らない話になる。そして、オレ自身もまだ知らない。

オレは29歳。会社員6年目。独身で子供なし。一流大学を卒業し、大企業といわれる会社に勤めている。設計業務担当。恋人がいる。平凡なステータスだが、幸福と呼べる部類にあるだろう。一週間後はオレの誕生日だ。オレの誕生日は12月26日(日)、クリスマスの次の日。今、オレの目の前にハガキがある。このハガキの有効期限は26日の午前0時から27日の午前0時までだ。例の機関は24時間営業。


今日は12月20日(月)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る