第50話 二人の関係
「あの時のフェリシア嬢の顔は見ものだったな」
悪戯が成功した悪ガキの様にくすくすとクレイドは笑った。
✳︎
私の開いたお茶会の後、形ばかりの王家からの謝罪があったとお父様が教えてくれた。フェリシアは正式な婚約者ではないので王家がアルデンヌ家に気を遣ったのだろう。
ただし、当の本人は反省することなく、サージェ様に散々悪態をついた上、兄様にしつこく付きまといちごを引き渡す様に迫ったらしい。
あれだけガツンと追い返されたのに、あの兄様に近づく根性がすごい。
それだけフェリシアにとって聖獣はどうしても手に入れたいものだったのだろう。
建国祭の初日、ついに彼女は王宮図書室の入室証をサージェ様に頼んで手に入れる。
入室証だけなら王宮に出入りを許可され、いくつか条件をクリアすれば手に入れられる。
それなのに入室証が発行されなかったのは、そもそも王宮への出入り自体が正式に許可されていなかったからだ。
数々のトラブルを起こしてきた結果、サージェ様を訪ねる時のみ護衛付きで入城が許されていたので、当然そんな人物に貴重な資料がいっぱいの図書室への入室は許可がおりなかった。
もう、自業自得である。
それをまたもやサージェ様のゴリ押しで、入室証が発行された。
当然、禁書の閲覧など許可されるわけもない。
『どうして王族であるサージェ様が一緒なのに禁書が見られないの?』
図書室中に響き渡るような甲高い声でフェリシアは叫んだそうだ。
禁書の保管室には国王の許可が必要で、たとえ王子であっても皇太子にならなければ勝手に入ることはできないことは常識なのに。
さぞ、司書は困ったことだろう。
「まあ、騒ぎを起こしてくれたおかげで罪をなすりつけられるけどね」
あの日、司書と揉めている二人の後に、クレイドとカイルも図書室を尋ねていた。
あらかじめ禁書を何冊か閲覧申請しておく。
クレイドが借りても怪しまれないように、バーンズ領に関するものを。
禁書と言っても、歴史的価値の高い文献や王家貯蔵の書籍以外は、閲覧だけなら王の許可がいらない。
『ちょっと、なんであいつらに禁書を渡してるのよ!』とフェリシアは指を刺して叫んでいたとか。
禁書は一般には誰が閲覧したのかを公開していないので、クレイドとカイルが何を閲覧したのかは分からない。
このタイミングで禁書の閲覧といえば聖獣関係しかないと思うはず。
悔しそうに、地団駄を踏むフェリシアはとても可憐とは程遠かったらしい。
閲覧した本に座標になる目印をつけて返却。後日、つけておいた目印に転移して忍び込む。
転移魔法には転移先にも大きな魔法陣が必要だが、いちごのおかげで小さな目印だけで済むのでまず気付かれることはない。
そして、お目当ての本を盗み出す。
「でも、なんでせっかく盗んだ本を元に戻したりしたんだ?」
「あれ? お兄様に聞かなかったの?」
「カイルに聞いたら、こんなこともわからないのかって顔されたら恥ずかしいし」
なるほど、見栄を張ったわけか。
「戻した本にはちょっと細工をしておいたの」
「細工?」
「闇の聖獣を呼び出す魔法陣、魔族との契約方法を削除したの」
「貴重な本なのに?」
「著者には申し訳ないけどフェリシアに魔族を呼び出されたら、この世界は大変なことになるもの。人の命の方が大切でしょ」
「本に細工したことが発覚したら、僕たちが怪しまれるんじゃ……」
「あら、大丈夫よ。禁書の保管庫には入っていないし、閲覧した本も全く違うものだし。それよりも、細工を見つけた人間が一番や怪しまれるでしょうね」
フェリシアは散々、闇の聖獣に関する本を出せと騒いでいたんだから。
「じゃあ、フェリシア嬢と司書が揉めているところにわざわざ鉢合わせる必要ってあったのか?」
「クレイドもまだまだね。ただ単にお兄様はフェリシア様の悔しがることがしたかっただけ。嫌がらせね」
「やっぱりか……それで、結局作戦は成功したの?」
「バッチリよ。4ヶ月くらい前ようやく閲覧できたみたいだけど、貴重な本を破損した疑いで賠償金を払っていたから」
「つくづくカイルを敵に回したら怖いな」
兄様はやられたら倍返しが信条だから。
「僕も、見習いたいと思う」
兄様のようにお腹の中が真っ黒なのがもう一人増えるとか絶対無理。
「いやいや、クレイドには今のままでいて欲しい」
「今のまま?」
「うん、素直で好青年な感じ?」
「それは、ローズの前だけだよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
またもや、クレイドはポッと耳を赤くした。
なんだか分からないけど、野良猫を手懐けたみたいで嬉しい。
推しが可愛くてじーっと見つめていると、さらに首筋まで真っ赤に染まっていった。
※ ストック無くなりました。
不定期最新になりますが、できるだけ1日おきに最新したいと思います。2月初めには完結予定です。
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