第28話 モフモフの生き物


「本当に狩場に出ないんですよね」

 ロダンが私とクレイドを馬に乗せその手綱をしっかりと握りしめて不安げに見上げてくる。

 ロダンにはクレイドのことは兄様も知っている高貴な貴族の友人とだけ説明した。


「ええ、雰囲気だけ堪能したら帰るから。ほら、湖を一周すれば気持ちいいし」

「わかりました」

 と恨めし気に持っていた手綱を私に手渡してくれ、ロダンも自分の馬にまたがる。


 フェリシアはフローズン卿を待っているみたいだからその間にモフモフを探し出したい。


「本当は何しに行くんだ?」

 後ろに乗ったクレイドが耳元で囁く。

 ちょっと、そんなにキラキラの顔を近づけないでよ。

 ドキドキしちゃうじゃない。


「白い聖獣を探しに行くんです。クレイドもよく周りを見て」

「白い聖獣?」

「ええ、ヒロインちゃん……フェリシア様が探しているんですが、横取りするの」

「はぁ? 何でそんなこと?」

「フェリシア様は間違いなくクレイドの敵よ。白い聖獣を手に入れたら聖女として覚醒するはずなの」

「どうしてそんなことを知っているんだ?」

 どうしてって、それがシナリオだからだんだけど、それを説明するのには時間がいる。


「いつか話せる時が来たら話しますから、その質問もうしないでもらえますか?」

 無茶苦茶なことをお願いしている自覚はあるが、いちいち障害を阻止しするたんびに聞かれるのは面倒だ。


「わかった。君を信じるよ」

 クレイドはあっさり返事をすると、キョロキョロと辺りをみわし白い聖獣を一緒に探してくれるようだった。

 推しが素直すぎて可愛い。


 はやる気持ちで馬でかけていくとモフモフが、魔物に襲われていた。


 キタ!


 聖獣ならあれくらいの魔物、どうってことないはずだが、どうやら足が罠に挟まれているらしい。


 あれは魔物を捕らえるために特別に作られた魔鉱石で作られているものだ。


 馬を止め、背中に背負った弓を持つ。

「こんな距離無理です。逆にこちらに気づかれてしまいます」

 ロダンが後ろで剣を抜く気配を感じる。


 私は人差し指を唇に当て、動かないように釘をさす。それからゆっくりと弓をかまえ狙いをさだめた。


 ドッサっと、悲鳴を上げる間もなく、野獣が湖に頭を突っ込んで倒れる。


「見事だな」

 クレイドが感心して声を上げる。


「フーッ」

 息を吐き出すと、ロダンが剣を抜いたまま野獣を確認しに行った。


「見事です。まさかこの距離から頭を打ちぬけるとは……」

 昔、ちょっと弓道をかじったことがあるのよ。

 何事も経験ね。


「お嬢様、馬から降りないでください」

 モフモフに駆け寄ろうとしたが、ロダンにきつく制止される。

 クレイドも私の腕を掴み、辺りを警戒していた。

 魔物は基本単独行動だが、魔物が一匹でもいるということは他にもまだいる可能性があるからだ。



「手負いの獣は危険です。首をはねますか?」

 イヤイヤイイヤ。

 あなた。さっき「かわいらしい動物を射止めるのはどうも性に合わなくて」って言ってたよね。

 この目の前のモフモフが可愛くないっていうの?


「駄目に決まってるでしょ」

 私は慌ててロダンとモフモフの前に両手を広げ立ちはだかった。


「ローズ」とすぐさま引き戻され背中にかばわれてしまう。

 クレイドもいつの間にか剣を抜きピリピリして、今にもモフモフを攻撃してしまいそうだ。


「クレイドもロダンも、本当に大丈夫だから。剣をおさめて」

 二人のせいで、モフモフは今だ戦闘態勢を崩しておらず、歯をむき出して怒っている。

 子猫をなつかせるにはよく甘噛あまがみされても腕を差し出して、そのままかじられるってのが定番だけど、かじられたら腕がもげそう。

 まあ、自分で治癒できるけど、痛そうなのでやめておく。


「さあ、早く。どちらにしても罠にかかってるんだから襲ってこられないでしょ」

 しぶしぶ、二人が剣をおさめると私はモフモフに話しかけた。


「私たちは敵じゃないわ。その罠を解いてあげる。ほら、魔物に矢を放って退治したのは私よ。危害を加える気ならあなたにも矢を放ってるはずでしょ」

 ゆっくりと、刺激しないように優しく話しかけると、モフモフは牙をしまい挟まれている足を見た。


「いいわ、今から近づくから大人しくしていてね」

「ローズダメだ!」

「お嬢様、俺がやります」

「ロダンじゃ無理よ。これ魔法がかかっているから」

「しかし……」

「いいから、これは命令よ」

 ロダンはわかりました。と返事はしたものの、納得していないようで私の後ろにぴったりとくっついてきた。

 もしも、モフモフが襲ってきたら腕を食いちぎられる覚悟で私をかばう気らしい。


「じゃあ、僕が少しは魔法が使えるから」

「クレイドも私に任せて。絶対に大丈夫だから」

「でも……」


 もう、本当に大丈夫なのに。


「私を信じて」

 クレイドは渋々頷いた。

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