第5話 断罪シーンをご一緒に

「ショタ様ってあの腹黒のことか?」


 誰!?

 私と同じ歳くらいの少年が、無表情に立っている。

 立っているだけで、周りまでキラキラして明るくなった気がするのは、金貨みたいな金色の髪だからかも。

 まじで……本物の金色の髪を始めて見たよ。

 金髪だと思っていたのは、あれ、金色じゃないな。これと比べたらベージュだ。



 でもって、金色の瞳。

 凄いわぁ。こっちも金貨みたい。

 例えのバリエーションが無いのは、悲しいけどそれくらい金色なのだ。


 しかも、絶対重要人物ですってオーラ。

 ひしひしと嫌な予感がするけど、今はスルーしたい。

 私は頭の中をフル回転して言い訳を考えた。

 所詮は子供、言いくるめて逃げよう。


「あの、これから面白い事、いえ、大変な事態になりそうなんですがそれを鑑賞してから説明させていただいていいですか?」

 心配でと、悲しそうな顔をしてヒロインちゃんを真似てあざとく首をかしげてみたのに、目の前のキラキラは表情一つ変えずに、エレノア様と殿下の方に視線をおくる。


「そんなにあの茶番に興味があるのか?」

「茶番だなんて、私エレノア様が心配で」

「お前、鑑賞って言ったぞ」

 あ、つい本音がもれてた?


「あの……」

「まあいい。茶番が終わった後じっくり話を聞かせてもらう」

 えっ、それはイヤだけど、まずは断罪を見なくちゃ。

 私はコクコクと頷いてカイル兄様の背中を探した。



 兄様はエレノア様の正面まで歩いて行くと、「ちょっと待ってもらえますか」と話に割って入った。

 エレノア様は兄様の登場にそれまでの緊張した面持ちを緩め、ほっと息をつく。

 あー、わかる。兄様って癒し系に見えるよね。中身悪魔だけど今は外見ショタだし。

 エレノア様。期待させて申し訳ないけど兄様は味方じゃないのよ。


 兄様は殿下やエレノア様とは学年で3つ違いで15歳、すでに殿下は18歳だ。この年代の3歳差は体格的にも差が大きい。エレノア様にいたってはもうお胸もお尻も御立派でとても18歳には見えない。

 それでも皆、兄様の言葉に耳を向けるのは公爵家令息という地位と宰相の息子という立場からだ。

 生徒会でも年下ながらその問題解決能力は高く評価されていた。


 普段から、殿下とエレノア様のいざこざを上手く捌いさばいているのは皆知っているし。

 今回のように重要な茶会で、もめ事があってはならないのは誰の目にも明らか……固唾を飲んでいた貴族も当然この場を丸く収めるであろうと期待し肩の力を抜いて見守った。


「修道院送りとは少々物足りない、あそこは金さえ積めば出入り自由だ。また、フェリシア様が暴漢に襲われるようなことがあってはならないだろ」

 一瞬、エレノア様は目を大きく見開き驚いた。そして兄様も味方じゃないとわかり再び顔が緊張で引きつる。

 

「何をおっしゃいますの? それでは私がこの娘を襲わせたみたいじゃありませんか。そこまでおっしゃるなら証拠をおみせください」


「証拠など、学園での聞き取りだけで十分だ」

 殿下が胸を張るが、それって証拠って言わないんじゃないの?

 証拠なしに公爵令嬢を断罪してたのか? いくら小説ではさらっと流されていても、ここは現実なんだからもうちょっとしっかりしようよ。

 あきれる私の横でキラキラの小さなため息が聞こえたが、それは聞かなかったことにする。


「証拠はある」

「何だと! カイルそれは本当か。エレノアがフェリシアを襲わせたことについてもか」

「もちろんです、殿下。ただ、それはうちの手の者に調べさせたもの。それを証拠として出せばエレノア様だけではなく罪はバゼロ公爵家まで及びますよ。どうなさいますか?」


 うちの手の者とは代々宰相を務める公爵家にまことしやかに実在すると噂されている諜報部のことで、事実存在する。


「そ、それは」

 カタン、とエレノア様は手に持っていたふわふわの羽のついた扇を落としてうつ向いた。


「殿下、エレノア様も学園での出来事はお認めになるようです。ここは寛大なお心で国外追放でいかかでしょう」

 にこりと悪魔のような笑顔で兄様が殿下に同意を求める。


「いや、フェリシアを襲わせたなどと国外追放だけでは許しがたい。改めて言い渡すが、エレノア。君との婚約は破棄する。投獄して処刑だ」



 兄様頑張れ! と心の中で応援して、私は処刑という言葉を聞いてガタガタと震えてその場に座り込んでしまったエレノア様に心から同情した。

 それと同時にズキンと心臓に痛みが走って両手を握りしめる。


 わかっていたけれど、こいつは裁判も無しに人間一人を簡単に処刑する男で、ここは愚かな人間が権力を持つとそれが許されてしまう世界なんだ。

 そんなの間違っている。


 この世界に来て薄々感じてはいた。二次元の推しは現実ではグズなことが多い。

 サージェ様もその1人。一途な愛に生きる王子はとんだ愚か者ようだ。

 これではとても推せない。


 こいつがもう少しまともな王子様なら、この後の悲劇は起こらなかったことを考えても、早々に退場してもらう必要がありそうだ。


 仕方ない。推しは別で探そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る