第25話 宇宙人の着回しコーデ(晴日視点)
雑誌『MOKOMOKO(モコモコ)』には私が担当している「オシャレ☆エイリアンは宇宙征服を望みます!」というコーナーがある。
普通の着回しコーデに飽きた私が酔っぱらった時に書いた企画なんだけど、連載50回をこえる人気企画だ。
ちなみに真面目に書いた企画は全く通らない。
つくづく企画など真面目に書くものではない。
基本設定は宇宙船が壊れて地球に降り立ったエイリアンのコブコブとみきピョン。
そして色々な服装をしている地球人に驚いた。なんと二人の星にはオシャレという観念が無かったのだ!
なんともクソ設定だが、オシャレを教えてもらう代わりに、二人のエイリアンが超能力を使っていじめっ子などをやっつける展開に人気が集まって、なぜか連載が伸びている。
こんなものどれだけでも書けるので実に適当な文章を量産している。
今月号の展開は「エイリアンの二人を追ってきた悪のバクロリアン」が登場して地球で暴れるが、素敵な服をきて落ち着く話だ。
メンズキャラを出してキラキラ展開をせよ! と中島デスクに言われて残念イケメンを皆でイケメンに仕上げる話だ。
毎月一人ずつイケメンを増やして5人くらいになったら5人戦隊でバトルでもさせるか……。
他の部分はすぐに連載が終了してしまうのに、一番「なんで?」と思いながら書いてるコーナーが続いている。
楽しいからもういいや!
今日はなんとこのコーナーの大ファンだという宇宙人アイドルが紙面に出てくれるということで撮影にきた。
特別出演という扱いではなく「漫画の中に出演したい」というので、構成を少し変えた。
バクロリアンの戦友という扱いで、美味しく仕上げてみたが気に入ってもらえただろうか。
撮影現場に行くと、その女の子は私を見て深く頭を下げた。
今どきの子っぽく、頭が小さくて本当に細いけど子供の頃からアイドルをしてきただけあって礼儀正しい。
「初めまして。デザロズののんです。コンテみました! とても楽しく仕上がりそうで楽しみです」
「良かったです、今日はよろしくお願いします」
撮影相手はデザート・ローズというアイドルの女の子……のんちゃんという女の子だ。
数年前にブレイクして、今もライブを中心に活動している。
撮影前にライブを拝見したけど、歌詞が何を言っているのか分からなくて斬新だった。
どうやら宇宙人という設定らしい。でもどこかの国の言葉をイジっていて、解読可能だと聞いて「へ~」と思った。
正直アイドルはあまりメッセージ性がある歌を歌わないほうが良いと思っているので「良いアイデアだなあ」と思った。アイドルは永遠に架空の存在であるべきだと私はなんとなく思っている。
雑誌を作ってると衣装にどうしても注目してしまうが、宇宙の設定を色々考えたものが多くてアート寄りだった。良いデザイナーさんが付いてる!
こんな雑誌の面白企画に本物の? 宇宙人? が出てくれるのはありがたい。
流れがあるので、コンテに沿って撮影を進める。
ここに絵で描いた宇宙人がくるので、襲い掛かるような絵でお願いします……と指示を出して撮影してもらう。
のんちゃんはカンが良く、サクサクと撮影を進めていく。
このコーナー、事前にコンテを書いているので撮影は簡単なのだ。
真骨頂はここから。
画面を漫画風にセリフを入れるだけではなく、プリクラで文字を入れたような可愛いコラージュ&漫画調に絵を大量に入れているので、その作業にデザイナーさんと丸二日作業が必要になる。
この連載は写真の横に空間があってはダメなのだ。
とにかく擬音『ドンッ!!』『ダンッ!!』
そしてはみ出した悲鳴『きゃーーーー!!』『でぇぇぇぇぇ』
今の子は「お金を無駄にした」と思いたくないらしく、空間=お金の無駄……らしく、とにかくギチギチとした画面を好む。
今回はのんちゃんが出てくれるという事で、ページ数も増えている。
どこまで書き込めるか……時間との勝負だけど、わりと好きな作業でもある。
戻って写真選んでレイアウト決めて……と考えながら帰りの作業をしていたら、のんちゃんに話しかけられた。
「あの、小清水晴日さんとお話がしたいのですが」
「はい、私です」
私はパソコンを片付けながら言った。
撤退が始まっているので、廊下のベンチにお菓子と共にお誘いした。
のんちゃんは「頂きます!」とチョコクラッシュクッキーを食べた。
ミサキが「食べたあい」と突然言うので常に鞄に入っているものだ。
のんちゃんは姿勢を正して私の方を向き言った。
「あの、小清水さんがリアルタイム返答が可能なVRのライブをドラゴンさんに提案したと聞きまして」
「はい。リズム・ドラゴンの企画ですね。お好きなんですか?」
実の所、最近多いのだ。
やはり琥珀が出ているのもあり、わりと話を聞かれる。
のんちゃんは、軽く手を振って話し始めた。
「いえ、その中の出演者が、デザロズの前からの仲良しで一緒のライブをしていた仲間なんです。彼女頑張りすぎて大けがをしてアイドルを諦めたんですけど……自分そっくりのキャラクターが自由に動いてて、やっと自分のケガをネタにしたんです。『この子は何しても怪我しなくていいなあ』って。私それが嬉しくて!」
「その子のお名前は……」
「アカリです!」
待ってくださいね……私は言って調べた。
あった。経歴はドラゴン所属の声優さんになっていたが、VRライブの出演者になっていた。
私は男性側を取材して、桜ちゃんが女性側を取材しているので、会ったことがない子だった。
のんちゃんがスマホをいじって動画を見せてくれた。
そこに映っていたのは小学校高学年程度の女の子二人……片方の女の子が元気いっぱいに歌って踊り、センターに置いたトランポリンに飛び込んで一回転してから歌を歌っている。
ひええ……確かにこんなこと続けていたら腰がやられそうだ。
その横には一緒に楽しそうにしているのんちゃんが映っていた。
のんちゃんは画面を見て静かに口を開いた。
「難しいのは分かるんです。この時みたいに動けるようになるわけじゃない。私は怪我をしてないから、本当に意味で寄り添えるわけじゃない。私の言葉なんて砂糖菓子みたいな甘い。でも諦めてほしくなくて、私ずっと頑張ってる姿を見せてきたんです。やっと声優のお仕事をはじめてくれてすごく嬉しかったんですけど……人前でお仕事したそうに見えたんです。でも勇気がでなくて……そんな時にVRライブのお話がきたみたいで! 私めっちゃ嬉しいんです。お客さんの前に立つと、アカリってすごいんです!!」
嬉しそうなのんちゃんをみて嬉しく思ったけど……同時になんというか……。
本気で「隼人さんをアニメキャラに! そして萌え転がる!」しか考えて無かったので、あまり良い話にされると「すいません」という気持ちになる。
それにアカリさんの履歴をみると、かなり早い時点でドラゴンには所属している。
隼人さんも「顔出しをしなくて良いなら、出てみたいと思った。人前にでるきっかけを作ってくれてありがとう」と言ってくれた。
「ずっとのんさんが前で立っていたから、ほんの少しにきっかけで立ち上がれたのかも知れません。私がしたのは小さなことですよ。ずっと前で立っていたのんさんが居たからですよ、きっと」
友達が怪我をしてなお、最前線に立ち続けるのは並みの精神力ではない。
身内に不幸があり仕事をやめてしまう子は多いのだ。
本当に強いのは、アカリちゃんが立ち上がるのを信じて、アイドルという過酷な仕事を続けたのんちゃんだと思う。
「はいっ……ありがとうございます! ライブもきてくださいね、はいDVD!!」
嬉しそうに涙を目にためてのんちゃんはほほ笑んだ。大人びた表情で仕事をしていたけど、話すとただの18才で、最後は無邪気にDVDをプレゼントしてくれた。
またアカリと一緒に仕事するのが夢なんですというのでトックランさんを紹介した。
トックランさんは私にしゃぶしゃぶ割引券を贈るべきだ。
会社に戻ってデザロズのDVDを再生しながら写真を選んでいたんだけど、みんな可愛くて本当に今度見に行こうと思った。
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