第4話 惑星連合

 惑星レイウッドより数千光年、惑星連合圏のほぼ中心部。長径およそ1000kmの巨大宇宙ステーション。そのさらに中心部付近にある一室。惑星連合常任理事国5カ国の各連合大使が非公式に一堂に会していた。いや、それからもう一国、非常任理事国の大使が一人。

歳は30前後、宇宙でも小柄な部類に入る日本人にしては体格が良く、大使というにはなんとも野性的な雰囲気を持った男であった。

「では、どうあっても、レイウッドは見捨てると!」

日本国惑星連合大使、沢田洋が言っ放った。

「左様、レイウッドはそもそも、惑星連合加盟国どころか、個体数100にも及ばぬミクロネーション。おまけに星には何の経済的資源も技術もない。我らの貴重な財を費やすに値しない。」

常任理事国の一角、ザイロンの大使ブラマルラが沢田の言葉に応えた。プテラノドンのような頭にずんぐりとした体。目には視覚補正のためか装飾か、丸細い金色のゴーグルをつけている。ザイロンは希少エネルギー源や希少金属などで財をなした惑星連合内きっての経済大国である。その国民性もまた、非常に経済的損益を重視する。

「戦略的にもレイウッドでトカゲたちと戦端を切るのは得策じゃねー。あんな何もない辺境に0から軍備を揃えるには時間が無さすぎる。ひとつ手前のゲリル星系のゴルド共和国なら、元の軍備もそこそこだし、ウチの辺境軍も常駐してる。トカゲたちを迎え撃つなら、ゲリル星系だ。」

続いて、戦略的な理由を説いたのは、ドライジェンの大使、メリジアだった。ライオンと地球人を足して2で割ったようなヒューマノイド。ただし顔立ちは地球人の感覚でいうと女性的で、声もやや高い。というよりこの大使は実際に雌性体である。惑星連合内では好戦的な種族だが、他に類を見ない女尊男卑社会で、政治、外交はおろか、こと戦闘においても表に出てくるのは原則雌性体という種族である。

「ミルズ大使、ソル大使、貴国らの意見は?!」

沢田は、そこまでずっと沈黙を守っていたアクークシエルのミルズ大使、ヴォルゾイドのソル大使に問うた。

「我が国は特に独自の意見はございません。我が領域に直接害が及ぶのであれば、それ相応の対応をしますが、それ以外については、連合安保理の決定に従います」

応えたのはアークシエルのミルズ大使だった。長い銀髪の雌性体ヒューマノイドで、比較的地球人の女性に似ているが、その姿は神々しく、瞳と表情からは底が見えず、地球人とは目に見えぬ何かが根本的に違っていた。アークシエルは1万年前に、雄性体のみが発病する原因不明の病で雄性体が絶滅するという危機に陥ったが、その時点ですでに高い遺伝子操作技術を持っていたアークシエルは人工的に子孫を残す手段を確立し、以後、人工培養の雌性体のみで社会を構築している。また、脳と電子媒体を直接リンクする技術も有しており、情報処理速度は他種族の数倍以上と言われている。

「ソル大使!」

それでもまだ沈黙と守っているヴォルゾイドのソル大使に、沢田は言葉を投げかけたが、それでもソル大使は反応しない。全身を漆黒の防護服に身を包み、呼吸音とともに排気口から蒸気を噴出している。宇宙の80%の種族は地球人とほぼ同じ、酸素20%、気温10〜30℃の大気で生活しているが、ヴォルゾイドが生活している大気は30〜60℃で、わずか数%だが硫化水素を含む。防護服の上からはわからないが、本体は軟体動物のような体に一部外骨格を有した姿であると言われている。他種族との接触は最低限にとどめ、政治的主張もほとんどしないが、高い科学力を有しており、戦争を仕掛けてきた種族をことごとく絶滅させており、連合内では最も恐れられている種族である。

ドライジェンとザイロンの科学技術や社会レベルは地球とほぼ同程度だが、アークシエルとヴォルゾイドは宇宙進出後の歴史が他の文明よりはるかに長く、科学技術も社会構造も他より飛び抜けている。文明の歴史とレベルの高さから常任理事国入りしているが、政治的駆け引きや争いは好まず、安全保障理事会で目立った動きはしない。結果、安全保障理事会ではほぼ他の3カ国の駆け引き、合意によって決定がなされる。そして、沢田が敢えて意見を求めなかった最後の一国が口を開く。

「と、いうわけで、当初の結論通り、我々惑星連合安全保障理事会はレイウッドには介入しない。ということでよろしいですか?沢田大使。」

地球連邦惑星連合大使ジョンソン・エイカー、沢田と同年代、30前後の金髪の白人である。ジョンソンの言葉で、この非公式の会談は幕を閉じることとなった。地球連邦は建国してわずか百数十年の新興国家だが、その政治、外交のしたたかさは惑星連合の中で群を抜いており、建国後わずか百年で常任理事国入りを果たし、安全保障理事会の決定を左右する地位にまで至っていた。

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