第10話 さらなる絶望へのカウントダウン 3・・・

結局、試合に出場する事は出来なかった・・。


試合が決まる・・減量・・試合・・暴飲暴食・・試合が決まる・・減量・・


こんなサイクルを3年間続けていた私。そのサイクル中の、肝心の試合がない。


初めての体験。


試合がキャンセルになり、もう、体重を気にする事なく、食べたり、飲んだりできる。しかし、普段とは違う感覚に、これは夢なんじゃないかと。減量も佳境に入ると、現実の世界と空想の世界が、ごっちゃになる事がある。


ある時、肉体労働のバイト終わりで地下鉄に座っていた時。視線を感じ、隣を見ると、こちらを見ている男。


試合直前で減量のピークだった私は、少しイラっとして、あかんあかんと目を瞑り気を紛らした。しかし、やっぱり気になり、再度見た私。


やはり、こちらをジッと見る男。


若かった私は「何見とんねん!」と怒声を上げながら立ち上がった。


そこで気がついた。こちらを見ていた男。


その男は連結部分に乗っていたため、ガラスに移りこんだ私だった。


普通の状態だったらそんな事あり得ないんだけれど、減量が佳境に入るとそんな状態になる。


その肝心の試合がない状態・・・。


夢か現実かわからなくなっていた私は頬をつねるなんてもんじゃなく、思いっきりビンタをしていた。その内、自分自身の悔しさ不甲斐なさが込み上げ、クソっ!と泣きながら拳で顔を殴っていた。


それを桜子が泣きながら止める。


昨晩、当時の事と向き合い記憶の糸を一生懸命辿ろうとした。


しかし、そんな光景しか思い出す事が出来なかった。しかも、無声映画のように、音声を思い出す事ができない・・・


あの時、桜子はどんな言葉を私にかけてくれたのだろうか?私の桜子に対する言動はどうだったのか?


その全ての記憶がダルマ落としのコマのようにスコンと抜け落ちていた・・・。


人間というのはあまりにショックな出来事が起きると、自己を守る為、記憶を消去するという事なのだろうか?


その後、もう一度再起すべく、アルバイトせずリハビリに専念した私。その間、生活面で桜子には負担をかけてしまった。


ダイヤルQ2のサクラも私と付き合うようになってからは辞めていた。しかし、ダメージで仕事が満足に出来ない体の私の為、少しでも稼ごうとダイヤルQ2のバイトも昼職と並行して始めた。ダイヤルQ2の仕事は分か秒か忘れたけれど、少しでも長く話せばそれだけ報酬も稼げる。


おまけに普通に話すダイヤルではなく、テレホンセックス用だとさらに単価が上がる。勿論、桜子は稼ぐ為、テレホンセックスダイヤルを選択した。


私の横でレディコミの漫画を読みながらアンアン言っていた。そんな様子を見ながら、男って生き物は切ないな~なんて呑気に考えていた。


しかし、結果的にこのバイトを再開した事によって、二人の関係は破滅へと向かってしまう・・・

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