第25話 初代たちのオープンキャンパス⑤

 綾人は、カックンと文字通り一晩中SNS内で話し合った。

 マンデラとは、マンデラエフェクト、マンデラ効果、と言われる現象のことを指していた。いわゆる都市伝説ものである。

 ネルソンマンデラ氏が獄中死した記憶の持ち主と、釈放された後に大統領になり、その後死亡したとの記憶の持ち主が世界的規模で散見された為に『マンデラエフェクト』と呼ばれているという。

 そして、そのマンデラエフェクトを認知して、現実世界が変わってしまったことを体験した者をマンデラーと呼んでいるという。

 カックンからは、幾つかの質問をされた。

 東京タワーの色は?

 辻の字は一点しんにょう?二点しんにょう?

 異体字って知ってる?

 オーストラリアの位置はどこ?

 心臓の位置は?

 胸骨は有る?

 蝶形骨は有る?


 これら全て、マンデラーの中ではそれぞれ異なる世界線からやって来た者では回答が割れるらしかった。

 綾人が分かる範囲で答えると、カックンは自分とは異なる『世界線』だと言った。

 『世界線……?』

 『平行世界。パラレルワールドのことだよ』

 『それって映画やアニメや小説とかマンガの世界の話じゃ……?』

 『じゃあ聞くけどさ、俺とAYAのさっきの質問の東京タワーの色、違うけど?それはどう思う?因みに明日、あ、もう今日か。?どう説明する?かりんとも逢えなかっただろ?』

 『あ……!』

 そうだ、かりんと同じ時刻に同じ場所に居たはずなのに……カレンダー、駅員、コンビニが決定的に違い、また混雑状況も違っていた。

 『……じゃあさ……なんでで繋がっていられる……?』

 『それなんだよ!俺が思うに、ネット世界ではありとあらゆる世界線から繋がれるんじゃないか、と。俺、春休み中にフォロワーの一人が妙なことを呟いてたのを見たんだ。それから俺にもおかしい現象が起き始めちゃってさ……マンデラ氏が亡くなって、そんなに経ってないのにさ……こういう名称が現象に付いているんだ、他の世界線ではずっと昔に亡くなっている、って喚いてたんだよ、その人。いいか、AYA。これから先はどんな世界線に

 世界線に、跳ぶ……?

 『俺は体の中が変わって、右利きオンリーだったのが、いきなり両利きになったんだ』

 『はぁ?』

 『頭がおかしいと思うだろ?俺も最初はそう思った。俺にマンデラをフォーカスさせたフォロワーは、心臓が左寄りからど真ん中に移動した、と喚いてた』

 カックンは、更に世界線が異なる理由を述べた。一度移動を認知してしまったら、次々と環境が変わってしまった時があったと恐ろしい体験を飄々と綴った。

 『見たことない看板や店がいきなり現れて見ろよ……新しいか古いかを吟味しなくちゃならない。それが突貫工事で仕上げた建造物か、それとも、俺が世界線を移動して、それが元から存在する世界線へやって来たのかが分からないからな……』

 『そんなに……怖いな』

 『家族だって親友だって、


 『記憶が!?何故!』

 『

 綾人AYAは次の言葉が打ち込めない。しかしカックンは、次から次へと語って来る。

 『そうだ、かりんもAYAも多分マンデラーだと思うよ。天皇誕生日がかけ離れているから、凄い遠い世界線同士なんだろうな……こんなレアなケースは聞いたことがなかった。正直びびった!』

 『マンデラー……』

 『詳しくは俺も分からないけどさ、体が移動するのか、体内部が進化遂げるみたいに変わるのか、が移動するのかどれかかな……?』

 綾人には与えられた情報量が多すぎて、なかなか腹に落ちて来なかった。


 『そのマンデラーのフォロワーはさ、また別の人に変わってしまった。驚くなよ、性別が逆になって、男から女になってたんだ!』  

 『それは……ネットだから……いくらでも……』

 綾人は自身の性別を告知していないし、どうとでも誤魔化せると思うのだった。

 『まあな、でも、呟く内容がガラッと変わったりするからなあ……俺は信じている。一人二役とかでもない。複数人が目撃するケースもあるから。その彼女はさ、最近リアル世界でめっちゃおかしな体験をしたんだぞ~?』

 『……今までのも全部おかしいけど……』


 カックンの性別が変化したフォロワーは、世界線を頻繁に跳ぶらしい。行きつけのコンビニ内にいきなり銀行のATMが現れた時、彼女はそれが新しいのか否か判断する基準を「ホコリ」に重点をおいてチェックしているそうで、それがホコリが積もっていたらしく、SNS上で『行きつけのコンビニにいきなり銀行のATMが現れたんだけど、チェックしたらホコリが積もっていたから、私が跳んで来たみたいよ!また移動しちゃったよ~!』と書き込んだそうだ。

 すると、それが、『突然失礼致します。○○銀行の者です。申し訳ございませんが差し支えなければどちらのコンビニかを教えて頂けますでしょうか?ご連絡をDMにて取らせて頂きまして、早急に清掃させて頂きたく存じます』との文面がリプに書き込まれたそうだという。

 そしてその後、連絡を取り合い、無事に行きつけのコンビニのATMの清掃が行われて、銀行職員からお礼のDMがあったそうだ。

 『……マジ?作り話じゃなくて?』

 『マジ。俺、そのやり取りをちらっと見たから。スクショしとけばよかったかな……まさかAYAとこんな話出来ると思ってなかったからなあ……フォロワーにもあまりいない。もちろん、リアル世界なんかではこんな話出来ない。頭がおかしいと思われてしまう』

 『話したのか、カックン!』

 『ん、ちょっと触りだけ……って、AYA?もしかしたら、性別変わったりする?』

 綾人は無意識に素で書き込んでしまった。

 『……あ、やっぱ女の子だと思ってた?』

 『えっっ、違ったのかよ!紛らわしいな!』

 『……ごめん……実は、自分、男なんだよ』

 『あーあー、道理で!かりんに特別優しかったワケだあ~。ああ、納得納得』

 『は?何それ!』

 『や、みんな言ってたんだけど?AYAって、かりんに特別なんかあるよな、ってさ。なーんだ、じゃあ、って世界線が違うんじゃ逢えなくて残念だな。ま、こっちだけでも繋がっていられるから。まあ、ヨシとすれば?』

 

 そうだ。こちらでは繋がっていられる。綾人は今晩は早めにここ《SNS》へ来よう、と思うのだった。

 自分とかりんがマンデラーであることがどんな意味があるのかを、この時はまだ知る由もなかった。


 


 

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